Hot Issues of Skills Development

本ページでは、スキルディベロプメントに関する先行研究などをまとめて記事にして紹介しています

SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Hot Issues of Skills Development 逆境を乗り越えるための能力「レジリエンス」とは何か

逆境を乗り越えるための能力「レジリエンス」とは何か 山崎裕次郎

現在、新型コロナウイルスが長期化し、先の見えない不確実な状況は、私たちの日常を常に不安にさせます。非認知能力の一要素とされる「レジリエンス」は、このような不安な状況を乗り切るための能力として重要視されています。

レジリエンスとは、過酷な環境やストレスフルな状況、あるいは逆境に直面した時に、その喪心から回復し、状況に適応していく能力を指す概念です。日本語では、「弾力性(しなやかさ)」、「回復力」のように多様な表現がされています。

レジリエンスの研究は、リスクのある環境で育った子供の発達を観察する中で発展してきました (Cicchetti et al. 1993)。不自由な環境に置かれた子供は、そうでない子供に比べて学業などの能力が育ちにくい傾向が指摘されてきましたが、高い能力を示す子供が存在することをCicchettiら(1993)は発見しました。アメリカにいるヒスパニック系の住民は、所得の低さなどの逆境下で生活していますが、非ヒスパニック系と同等またはそれ以上の健康状態の良好さを示した結果が出ました (Gallo et al. 2009)。

レジリエンスは、なにか不規則な出来事が起きた時や、物事がうまくいかない時に、気持ちを沈めないことを意味しているわけではありません。レジリエンスは、たとえ気持ちが沈んだ時でも、挫けずに立て直していくことのできる能力を指しています。突然の災害といった狭義的な状況下のみならず、日常においても、生活に豊かな楽しみを見出す力、新しい経験への開放性、人生への楽観的な態度もレジリエンスの構成要素として含まれています(Lasota, Tomaszek, and Bosacki 2020)。レジリエンスは、単に逆境への対処として求められているだけではなく、成功者の持つ「根拠のない自信」を持つための重要な要素と佐藤ら(2021)は指摘します。

また、「レジリエンスの高い人」とは、必ずしも真面目で模範的な態度を取る人とは限りません。逆境において求められる能力は、平時には望ましくない特性であることもUngar(2008)は指摘します。「正直さ」は平時において望ましい特性であることは明らかですが、生き延びるための知恵として「だます力」を持つことも必要となる場合もあります。途上国の例でも、Scott (1985)が「弱者の武器」と呼ぶような、脆弱で抑圧された状況において、ずる賢い行為をしたり、偽ったりして権力に抵抗することも、現場に挫けないためのレジリエンスと通づるものがあります。私たちの現代社会においても、SNSを使用することで、次々と情報や人間関係を広げることが可能となっています。際限なく繋がりすぎる関係のなかでは、全てに対応する「社交性」のみならず「関係を断つ力」が、日常を生きやすくすることもあります。

レジリエンスを測定する尺度は今までにいくつか開発されており、「新奇性追求」、「感情調整」、「肯定的な未来思考」の3因子で構成された「精神的回復力尺度」(小塩ら 2002)や、資質的要因(楽観性・統御力・社交性・行動力)と獲得的要因(問題解決志向・自己理解・他者の心理理解)に分けた尺度も開発されています(平野 2010)。

上記の測定法は、個人の有するレジリエンスの要因を測定する一方、レジリエンスは、その個人の置かれている状況・逆境・適応する環境によって異なるように、個人の要因のみならず、個人を取り巻く周辺環境にも依存しています。そのため、脱文脈的な個人の資質や要因の測定だけでは、レジリエンスの発揮に必ずしも結びつかないとも指摘されています(Southwick et al. 2014)。そのため、レジリエンスという言葉を用いる際には、各個人が有するレジリエンスの要素を測定するのみならず、どのような状況において逆境と適応が想定されているのかを考える必要があり、当該環境における「あるべき姿」は、どのようなものであるのかを理解することが求められています。