Hot Issues of Skills Development

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非認知能力におけるGrit(やり抜く力)-隣接する特性との関係とGrit測定方法- 山崎裕次郎

非認知能力が教育・人材育成において注目される中、「やり抜く力」も「Grit」という心理特性から注目され、研究が進められています。「Grit」という概念は、長期的な目標を成し遂げることを支える非認知能力の概念として、アンジェラ・ダックワースが初めて提唱しました。Eskreis-Winklerら (2016)は、Gritを、困難、失敗、競合目標にもかかわらず、長期目標に対して示す「情熱」と「粘り強さ」と定義しています。Gritは、頭の良さと目標達成の関係はそれほど強いものではなく、「粘り強さ」が目標達成に対して重要であることから、目標達成・学力を支える能力として、企業の組織マネジメントや子育てまで幅広く注目されています。

Gritは目標を追求することを支える特性であり、目標追求を支える特性は他にも挙げられています。特に、Gritと類似する非認知能力として、自己抑制と誠実性があり、それぞれGritと強く相関関係があると報告されています(Eskreis-Winkler et al. 2016)。これらの隣接する特性とGritの関係は、現在まで研究が積み重ねられています。

自己抑制とは目標のために、目標とは別の衝動や誘惑を自ら抑止、制御することを指します(Baumeister et al. 1994)。Duckworthら(2007)は、アメリカの士官学校に対する研究から、Gritと自己抑制の違いを示しました。その研究結果では、士官学校生の退学は、Gritが自己抑制よりも強く相関関係を持つ一方、生徒たちの成績は、自己抑制がGritよりも強く相関があることが明らかになりました。このことから、両者は類似していても、とりわけGritは「忍耐力が問われる場面」、自己抑制は「日々の生活での誘惑」において、それぞれ重要であると指摘しています(Duckworth et al. 2007)。

もうひとつのGritと類似する特性である誠実性とは、計画性・責任感があり勤勉である特性として、性格傾向の分類であるビッグファイブの一領域を指します(Heckman & Kautz 2013)。誠実な人全てが、高い成果を出し、目標の放棄をしないとは限らないとDuckworthら(2007)は考え、高い成果と目標達成への忍耐力に特化した説明因子としてGritを提案しています。しかし、この考えに対し、Crede et al. (2017)は、誠実性の影響を統制した上で、Gritと学業成績の相関をみた時、有意な結果が出なかったことから、Gritという特性を批判しています。そのため、Gritと誠実性を分けて考えることは、現在でも研究が進められ、両者の違いに関して議論が続いています。

Gritを測定するために、Duckworthら(2007)は、高い業績をあげる人の態度や行動の特徴を多岐に渡る職業に対するインタビューをして探り、普遍的な目標追求への構成要素を考察していきました。その結果から作成されたものがGrit尺度と呼ばれており、現在Grit尺度には、12項目版 (Duckworth et al. 2007)と、8項になった短縮版 (Duckworth & Quinn, 2009) の 2 つが存在します。12項目版を日本にも適応させる試みを竹橋ら(2019)は行い、日本版のGrit尺度が開発されました。

Grit尺度が開発される一方、その尺度をいかに評価するのかについて、いまだに議論されています。Grit尺度は自己報告で測定されることから、回答者のポジティブな自己呈示が働き、選抜するための評価として用いられる時は、実際よりもGritが高く評定される可能性があります。そこで、実際の活動をやり抜いた経験の期間と実績を記述してもらい得点化するGrit Gridという測定法も開発されています(Robertson-Kraft & Duckworth, 2014)。Grit Gridは、Grit尺度による自己報告よりも具体的な経験に基づくことから客観性が担保される一方、記述式のためGrit尺度よりも時間とコストがかかることから、現在では両測定法ともに改善するための研究が進んでいます。

 

References

  • Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much ado about grit: A meta-analytic synthesis of the grit literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113, 492–511.
  • Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92, 1087–1101.
  • Duckworth, A. L., & Quinn, P. D. (2009). Development and validation of the Short Grit Scale (GRIT–S). Journal of Personality Assessment, 91, 166–174.
  • Eskreis-Winkler, L., Shulman, E. P., Young, V., Tsukayama, E., Brunwasser, S. M., & Duckworth, A. L. (2016). Using wise interventions to motivate deliberate practice. Journal of Personality and Social Psychology, 111. 728-744.
  • Heckman, J. J., &. Kautz, T. (2013). Fostering and Measuring Skills : Interventions That Improve Character and Cognition. NATIONAL BUREAU OF ECONOMIC RESEARCH Working Paper, No.19656
  • Robertson-Kraft, C., & Duckworth, A. L. (2014). True grit: Trait-level perseverance and passion for long-term goals predicts effectiveness and retention among novice teachers. Teachers College Record, 116, 1–27.