Hot Issues of Skills Development

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SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Hot Issues of Skills Development 学習デザインとしてのゲーム

学習デザインとしてのゲーム 山崎裕次郎

参加型の学習は、学習者の積極的な学びを促進するアプローチとして注目されています。積極的な参加を促すためには、学習の方法が、学習者にとって魅力的であることが必要となります。ゲームを用いた学習は、学習者が、楽しみながら学ぶ機会を提供するとして注目されています。ゲームを通じた学びは、大きく分けて、①特定の知識獲得のためにゲーム要素を入れる型と、②ゲームを通じて問題の構造を学ぶ型が存在します。

①特定の知識獲得のためにゲーム要素を入れる型は、早押しクイズのような形式で、ゲーム感覚で特定の知識を獲得するもので、ある特定の知識獲得を目的としたゲームを指します。学習のためのゲームは、クイズのように、知識を知っているかどうかで勝敗を分けるルールが想定されますが、勝敗に知識は問われなくても、三国志を題材にしたゲームから、地名・人名・出来事を覚え、歴史に興味を持つなど、ゲームのコンテクストから自然と知識を身につけるということも確認されています(笹尾、1999)。ゲームのコンテクストによる知識獲得を狙う取り組みとして、社会科地理教育において、日本の各地域・駅と特産品を用いたすごろくゲームである「桃太郎電鉄」を応用したゲーム教材を開発する取り組みも報告されています(阿部ら、2020)。

もう一方の、②ゲームを通じて問題の構造を学ぶ型は、特定の知識を学ぶというよりも、ゲームを遂行していく中で、戦略を立て、問題の解決にむけてゲーム全体の構造を学んでいくゲームを指します。RPGが典型的な例で、ストーリーを進めていくために、ゲーム内の課題解決に向けて、プレイヤーは模索し、学習していきます。この型を社会問題に応用した取り組みとして、World Food Program (WFP)はコナミと共同で2005年にFood Forceというゲームを開発しました(2009年にFood Force2も開発)。このゲームでは、プレイヤーが食糧を確保、緊急事態に対応、物資輸送を戦略的に行うことで、世界中の飢餓地域に食糧を届けるゲームとなっています。このゲームを通じて、問題解決に有効な戦略や、阻害要因を学ぶことを想定しています。

ゲームで学習していくことは、現実と離れた自由空間の側面である点も注目されています。Meyer & Stiehl (2006)は、ゲームの自由空間を肯定的に捉えています。自由空間であるため、プレイヤーたちは、実際の現場では失敗を恐れて遂行できない行動や、戦略を、ゲームにおいては積極的に学べる点を指摘しています。一方、自由空間の否定的側面として、現実離れしすぎる点、単なる遊びではない点があげられ、現実とゲームの距離感を保つことがゲームデザインに求められているとGreenblat (1988) は指摘しています。

学習デザインとしてゲームは、子どもの学習のみならず、先述のFood Forceのような国際課題など、大人も学べる内容にも活用することができます。この点は、企業内研修などに応用された、職場における知識の習得に対しても注目されています(中原ら、2006)。産業能率大学は、どのような企業に対しても、汎用的な企業内研修を円滑に行うシュミレーションゲームを提供しています。また、イタリアンファミリーレストランのサイゼリヤは、店舗経営を学ぶためのボードゲームを開発し、企業に特化した知識を獲得する方法にもゲームが活用されています。Thiagarajan (2018)は、対話によるゲームを通じて協調性を育むための具体的な方策を提示しています。彼をはじめ、対話やグループによるゲームは、ゲームを遂行することで、非認知スキルをいかに育むかに焦点を当てており、今後も注目されることが見込まれます。

 

参考文献

  • 阿部孝哉・河本大地・森口洋一 (2020) 「中学校社会化地理学習への嫌厭傾向の緩和を目的とした教材「九州クイズツアー」の開発とその実践 ─ゲーム「桃太郎電鉄」に着想を得て─」『奈良教育大学紀要. 人文・社会科学』69 (1), 73-85.
  • Greenblat, C. S. (1988) Designing games and simulation: A illustrated handbook. Sage Publications.
  • Meyer, T. & Stiehl, S. (2006) 「教育におけるゲーム利用の可能性」『シミュレーション&ゲームング』, 16(2), 83-91.
  • 中原淳・荒木順子・北村士郎・長岡健・橋本諭(2006)『企業内人材育成入門』ダイヤモンド社.
  • 笹尾省二 (1999) 「主体性の育成と社会化教育」『広島修大論集』39 (2), 307-324.
  • Thiagarajan, S. (2018) Training Games with Top 10 Tips. The Thiagi Group, Inc.