仕事の意義と報酬 水谷文
仕事の場においてエンゲージメントやモチベーションの重要性が従業員のパフォーマンスや組織環境、企業レベルの生産性と関連付けて多くの論文で示されています(Ovidiu 2013, Bawa & Bawa 2017)。これに関連して、エンゲージメントやモチベーションを上げるためには、何が重要かといったことも多くの経営関係の論文やブログで取り上げられています。
例えば、Terkelは職場でのモチベーションを高める上で、金銭的報酬のみならず「仕事の意義」が重要であると述べています(1974)。また、Shawnらの調査によると、10人中9人は、お給料が減ったとしてもより意義のある仕事につきたいと思っていることが分かっています。更に常に意義を感じられる仕事に就くことができるなら、平均で生涯賃金の23%と交換してもよいという回答があったとも言っています。
行動経済学で有名なArielyが行った実験でも、人は報酬よりも意義を重要視していることが分かっています。被験者は自分の成果を確認してもらえない・もしくは自分の成果を無にされる場合、たとえ報酬をもらえてもそれ以上その仕事をやりたがらないことが確認されました。また、日本の人材会社であるエン・ジャパンが2019年に行った調査では、ベーシックインカムにより最低限の収入が保証されていても、働き続けると答えた人は89%に上るとされています。
これは、Terkelが述べていたように金銭的報酬のみならず仕事の意義が重要であるという時代から、金銭的報酬も大事だがむしろ仕事の「意義」がより重要になってきていることを示しているのではないでしょうか。これらの論文は、先進国の労働者を対象としておりますが、金銭的報酬よりも労働環境や仕事への意義を求める傾向は、途上国においても見られます。
Maloney (2004)はラテンアメリカのインフォーマル・セクターの労働者についての研究を行い、これまでのインフォーマル・セクターへの認識は、経済的に脆弱で、十分な技能がなく、フォーマル・セクターからこぼれ落ちでしたが、その認識は一面的であると指摘しました。誰かに決められた賃労働に従事するのではなく、自身が仕事としてやりたいことを実現させるための手段として、収入の安定したフォーマル企業を退き、インフォーマル・セクターを選択する労働者も中には存在していると、彼の研究で報告されています。また、歴史的・地域的な背景からフォーマル・セクターではなく、インフォーマル・セクターを選ぶナイジェリアの都市労働者を、Meagher (2013)は描いています。このように、途上国においても、賃金の安定した労働環境ではなく、自らの嗜好する労働内容や環境を選びとる研究が報告されていることから、労働者個人にとっての仕事の意義を考えることは重要であるといえます。
References
- Ovidiu Iliuta Dobre, 2013. “Employee motivation and organizational performance,” Review of Applied Socio-Economic Research, Pro Global Science Association, vol. 5(1), pages 53-60, June.
- Bawa, M & Bawa, Muhammad, 2017. “Employee Motivation and Productivity: A Review Of Literature And Implications For Management Practice,” International Journal of Commerce and Management, 7. 662-673.
- Maloney, W. F. 2004. Informality revisited. World Development, 32(7): 1159-1178.
- Meagher, K. 2013. Informality, religious conflict, and governance in northern Nigeria: Economic inclusion in divided societies. African Studies Review, 56(3), 57-76.
- Terkel, Studs. Working: People Talk About What They Do All Day and How They Feel About What They Do (1974). The New Press. ISBN 0394478843