認知能力と非認知能力があれば十分? 水谷文
近年、認知能力のみならず非認知能力の重要性が幅広く取りざたされるようになりました。これらの2つの能力が人生の様々な側面で個人の人生に影響を与え形づけることは多くの文献で実証されています(Heckman & Rubinstein, 2001; Duckworth, et al., 2007)
日本生涯学習総合研究所によると、非認知能力には、問題解決力や批判的思考力などの能力的要素と、協調性、コミュニケーション力、実行力などの性格・資質的要素、そして倫理観や規範意識などの価値観的要素に分離できると言われています。これら要素の中の個々の能力は、幼児期からの基礎力が鍛えられて少しずつ育まれ、個人が成長していく中で少しずつ発展していき、様々な能力として示されるとされています(2018)。
一般的には、これらの能力は文脈が変わってもある程度一貫していると考えられており、それ故様々な計測ツール(質問紙)が開発されてきています。確かに、個人の性格や考え方はどのような場面でもある程度同じ傾向がみられると思いますが、一方場面によってかなり異なる影響がみられるものもあります。
例えば個人の興味関心、モチベーション、やる気、欲求などはその対象とするものや場面によって大きく異なると考えられます。これらは、非認知能力と言っていいのでしょうか。例えばモチベーションなどは、英語でSelf-motivation skills等と言って、自らその状況において自身のモチベーションを上げる能力などが議論されています。しかし、これらは能力というよりももう少し根本的なものであるような感じがします。
そして、それ故これらの興味関心、モチベーション、やる気、欲求は元々持っている個人の能力や技能に短期的にも長期的にも影響を与えていると考えられます。ここで、短期的とは、例えば、ある業務において、仮に能力が全く同じ従業員でも興味関心の度合いによりそのパフォーマンスが異なってくるといった状況で、長期的にとは興味関心がある分野においては、より努力してそれらを学ぼうとするため、その分野に興味がない人よりもその分野に関連する能力が高くなるという意味です。
このように考えると、非認知能力や認知能力のみを単体でモデルに入れて個人のパフォーマンスを計測するのは不十分であるように感じます。先ほど述べた興味関心やモチベーションがその場面での個人の能力の出し方に影響を与えるため、分析にはこのような文脈依存特性との交互作用を含める必要もあるのではないでしょうか。
(Reference)
- Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101. https://doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087
- Heckman, James & Rubinstein, Yona. (2001). The Importance of Noncognitive Skills: Lessons from the GED Testing Program. American Economic Review. 91. 145-149. 10.1257/aer.91.2.145.
- Zimmerman, Barry & Bandura, Albert & Martinez-Pons, Manuel. (1992). Self-Motivation for Academic Attainment: The Role of Self-Efficacy Beliefs and Personal Goal Setting. American Educational Research Journal. 29. 663-676. 10.3102/00028312029003663.
- 日本生涯学習総合研究所(2018).「「非認知能力」の概念に関する考察(I)」