Hot Issues of Skills Development

本ページでは、スキルディベロプメントに関する先行研究などをまとめて記事にして紹介しています

SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Hot Issues of Skills Development 働きがいと非認知能力

働きがいと非認知能力 山崎裕次郎

 

個人が組織で目的を達成する時、自らの能力が発揮できるという時、その個人は、「この業務ができてよかった」という、自らの業務や役割に対して働きがいを感じます。各個人の感じる「働きがい」の構成要素には、自己効力感、やり遂げる能力、自己コントロール能力などの非認知能力が含まれている点を船越・河野(2006)の看護師を対象にしたやりがいの分析をした研究で述べられています。働きがいと非認知能力は密接な関係があることについては他の研究においても確認されています(Locke  and  Latham 2013)。働きがいを持たせる組織づくりに関しては多くの研究があることから、本稿では働きがいが持つ良い面ではなく、その問題と非認知能力との関係に目を向けたいと思います。

 

労働者に「働きがい」を感じてもらうために企業は、労働者に配慮したタスク振り分けや、労働者個人の能力開発を促していくような組織運営に取り組んでいきます。従業員の能力を育成し、各個人がより高いパフォーマンスを発揮できるように促す仕組みは、「働きやすい職場」を生み出します(Sirota et al. 2005)。他方で、従業員に対して金銭的な保障の代わりに、精神的な満足感を埋め合わせていることもあり、その点を本田(2008)は「やりがいの搾取」と呼んでいます。労働の対価を支払わないような「やりがい搾取」の発生要因として、本田(2008)は、①趣味性、②ゲーム性、③奉仕性、④サークル・カルト性の4要因を挙げています。①の趣味性は「好きなことを仕事にする」というように個人の嗜好に沿うことに起因し、②のゲーム性は、権限を与えられることで自由裁量ができるようになったことに起因し、③の奉仕性は、だれかの役に立つような感情労働に起因し、④のサークル・カルト性は、組織全体の一体感、組織の精神と自己実現の同化に起因します。

 

個人が好きなこと、自由にできること、誰かの役に立つこと、連帯感は「働きやすい職場」として重要な要素ですが、これらがやりがいの搾取に向かってしまう要因として、本田(2008)は主体的能力構築と、非認知能力といった終わりなき能力化を挙げています。主体性を引き出すことが促されている職場において、各個人にとって職場は、「能力が発揮できている場」、「能力が養える場」であり、うまくパフォーマンスができていない時は、「自らの能力の不足を自覚する場」、「必要とされている能力が見える場」と解釈します。それと同時に、感情や態度も次々と新しい能力となることで、必要とされる能力は増え続けていきます。その結果、労働者は、専門知識にとどまらない態度や感情の能力化によって、終わりない能力構築を主体的に追いかけ続ける環境を、「自分が成長できる環境」として認識し、精神的な満足感をもつことになり、それが労働対価とすり替えられ「やりがいの搾取」に向かってしまいます。

 

別の方向からも「働きがい」の問題点が指摘されています。Graeber (2013) は、働きがいについて、「どうでもいい仕事」から分析しています。どうでもいい仕事に従事する本人すらも「意味がない仕事」と認識しているような、だれの役にも立たない「どうでもいい仕事」が高い給料をもらい、誰かにとって不可欠であり役に立っている「エッセンシャルワーカー」の価値が十分に認められていないのはなぜなのかを考察しています。この要因を、Graeber (2018) は実際に使用する価値(使用価値)と交換する価値(交換価値)という価値の二重性の視点から分析しています。等価交換という市場の原理を前提とした労働市場において、「どうでもいい仕事」従事者は、本人の人間としての使用価値は考慮されず、全てを交換価値としての給与に身をおいていることで等価とする一方、エッセンシャルワーカーは、誰かの役に立っているという「働きがい」としての本人の使用価値がある分、給与としての交換価値が考慮されていないといいます。このような価値の二重性の転倒によって、どうでもいい仕事が人間的な労働をなくしているにも関わらず無くならず、エッセンシャルワーカーの「やりがい搾取」にまで及んでいることをGraeber (2018) は指摘しています。

 

現在の労働は、労働者の対価として給与を支払うというように、等価交換の原理で成り立っていることは誰にとっても自明です。しかしながら、等価としている価値の二重性が混在してしまうと、「やりがい搾取」(使用価値に偏重し、十分な交換価値がない)や、「どうでもいい仕事」(交換価値に偏重し、十分な使用価値がない)といった労働環境を産んでしまいます。Graeberは、Enoとの対談においてどうでもいい仕事をなくすためには、各個人が仕事に対してモチベーションを向上させ、目標設定をしていくこと、協力や共感といった人間的な感情の育成が重要となる点を強調しています (Graeber & Eno, 2014)。この指摘は、非認知能力の育成と重なりますが、前述の通り「やりがい搾取」において、非認知能力が「労働対価としての能力構築」に転倒してしまうことに留意する必要があります。非認知能力は、個人の文脈に沿って能力を発揮して初めて能力の価値をみいだすことから、「活用する」ための使用価値としてみることが大切で、文脈化されていない非認知能力を、「与える」というような交換価値としての能力観とは別物として切り離す視点が重要となります。

 

参考文献

  • Graeber, D (2013) On the phenomenon of bullshit jobs: a work rant. Strike! Magazine 3: 10–11.
  • Graeber, D (2018) Bullshit Jobs: A Theory. London: Penguin Random House UK.
  • Graber, D. & Eno, B. (2014) In Search of Non-bullshit Jobs. Long player conversation. Artangel.
  • Sirota, D., Mischkind, A. L. and Seltzer, M. I. (2005) The Enthusiastic Employee: How Companies Profit by Giving Workers What They Want. Wharton School Publishing.
  • Locke, E. A.; Latham, G. P.(2013)New Developments in Goal Setting and Task Performance, Routledge
  • 本田由紀 (2008) 『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』, 双風舎.
  • 船越明子 , 河野由理(2006)「看護師の働きがいの構成要素と影響要因に関する研究:急性期病院に勤務する看護師を対象とした分析から」, 『こころの健康』, Vol. 21, No. 2, pp. 35-43.