失業要因の3類型とインフォーマル・セクター 山崎裕次郎
失業とは、ある人が仕事を探しているにもかかわらず、見つからない状態のこと指します。仕事が見つからない状態である「失業」はなぜ生まれるのでしょうか。この状態が起こる原因は3つに分類されており、「需要不足失業」「摩擦的失業」「構造的失業」といわれています (Pissarides 2000)。
「需要不足失業」とは、経済に対する不安の高まりなどによる消費や投資の冷え込み、経済全体の需要が減少することによって、供給も減少した時に起こる失業です。供給サイドの減少に伴い、労働を雇用する需要も減少します。需要の減少によって失業が発生したとき、賃金を低くして労働者を多く雇おうとする企業が出てきます。一方で、賃金が低いので働くのをやめようという労働者も増えます。このような経済不況が原因で起こるのが需要不足失業となっています。
「摩擦的失業」は、労働者が新しい仕事を探したり、転職したりする際の期間に生じる失業を指します (Pissarides 2000)。労働者個人は、自分の能力を生かしたり、やりたい業種に従事したり、良い待遇を得られたりできる職場を探していきます。しかし、自分に合った職場探しには、希望する職が見つからないことや、見つけたとしても採用までの期間に時間がかかり、どうしても一定期間の失業が発生してしまいます。
一方、「構造的失業」とは、雇用主が労働者に求める技能や学歴、性格といった特性と、失業中の労働者の持つ特性がずれることによって生じる失業です (玄田・近藤、2003)。たとえ労働者が働きたいと志願していても、当該企業が必要とする能力を有していなかったり、距離的なアクセスが困難であったりする場合、労働者は雇われません。このような特性における需給ギャップがある場合が構造的失業となります。
実際に起こる失業は、上記の3分類のどれか1つに分類されるというわけではなく、複合的な要因が想定されます (Herz and van Rens 2014)。ただ、3つの原因のうち、比較的どの原因が重要と考えることは、雇用政策を適切に進める際に役に立ちます。例えば、失業が需要不足によるときは、財政・金融政策などのマクロの需要拡大政策が必要となります。一方、技能や年齢等のミスマッチによる構造的失業のときは、人材育成制度の充実が必要になります。また、情報の非対称性によってマッチングするのに時間がかかることに起因する「摩擦的失業」に対しては、職業紹介の制度などが必要となっていきます。
上記は失業に対しての政策や制度についてでしたが、途上国においては、失業政策、保険・年金・生活保護などの社会保障制度が未整備な状態です。政策や制度が未発達な中、労働者は仕事が見つからない場合は、インフォーマル・セクターと呼ばれる零細雑業に従事して収入を得ていきます。この点で、インフォーマル・セクターはセーフティネットの役割を果たしています (Moser 1998)。インフォーマル・セクターは途上国で広くみられ、現在ではフォーマルから取りこぼされた層ではなく、一つの労働のあり方として収入多岐化戦略のようにも注目されています(小川、2019)。
インフォーマル・セクターは注目される一方、果たして失業の問題を包括的に解決するのでしょうか。先ほどの失業の原因3分類から見てみると、働き口を増やすだけでは根本的な解決とならない点が浮きあがってきます。経済の不安定化による需要不足による失業と、新しい仕事を見つけるまでにかかる期間としての摩擦的失業に対しては、インフォーマル・セクターの参入容易な点から、生存戦略としても、収入の多岐化戦略としても有用となり得ます。
一方で、企業が求める能力と、労働者が有する技能のギャップから生まれる構造的失業にかんしては、労働者の能力や特性が問題の中心にあることから、働き口を増やしても、根本的な解決とはなり得ません。そのため、能力の需給ギャップある構造的失業時は、単に参入容易な働き口による解決ではなく、どのような能力が必要とされており、不足しているのかを明示的にしていき、人材育成のアプローチが重要となっていきます。
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参考文献
- 小川さやか(2016)『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』光文社新書.
- 玄田有史・近藤絢子(2003)「構造的失業とは何か」『日本労働 研究雑誌』No.516, pp. 4―15.
- Herz, B. and van Rens, T. (2014) Accounting for Mismatch Unemployment. Mimeo.
- Moser, C. O. N. (1998) “The Asset Vulnerability Framework: Reassessing Urban Poverty Reduction Strategies.” World Development. Vol. 26. No. 1. pp. 1-19.
- Pissarides, C. A. (2000) Equilibrium Unemployment Theory, 2nd ed. MIT Press, Cambridge, MA.