急増するギグワーカーと新たな課題 山崎裕次郎
現在、個人の働き方が多様化しており、インターネット上で単発の仕事を請け負うことで収入を得る「ギグワーカー」が世界各国で増えています。Uber などによるギグワーカーは私たちの日常にもありふれた光景となってきました。
インターネットの普及は現在、先進国のみならず、新興国においても急速に進んでいます。アフリカ諸国においても、多くの人がスマートフォンを所有し始めることによって働き方が変わってきております。アフリカ諸国の多くの労働者は、一つの公的な企業に属するのではなく、非公式な個人操業や一時契約によるインフォーマル・セクターに従事しています。今までは雇用形態の曖昧なインフォーマル・セクターに属していた人が、スマートフォンアプリケーションに登録し、インターネット上で単発の仕事を取得していくことが容易になっています。世界銀行は、このようなインターネットの普及によるギグワーカー化が進んでいることで、仕事の在り方自体が変わり始め、それらが低所得層の労働を改善する可能性があることを指摘しています (World Bank 2019)。
アフリカ各国ではインターネットと労働の連携がみられ、ナイジェリアの通信技術省は「雇用創出のためのマイクロワーク」としてICTの活用によってギグワークによる雇用を創出していくことを掲げています(Graham et al. 2017)。ウガンダにおいては、インフォーマルな個人操業であったバイクタクシー業が民間開発のアプリケーションによってギグワーカーへと変容してきています。ギグワーカーとしてインターネット上に登録することへのインセンティブとして、無償の運転教習トレーニングの実施、収入をすぐ使い切らないように、財政管理の知識を提供など、ギグワーカーになる人の能力構築をしていく動きが見られています(井上 2020)。
ギグワーカーは各個人に雇用の機会を与えていきますが、かならずしも万能薬のようにはならない点をMeagher(2020)は、仕事のあり方とICT活用の可能性に向かう世界銀行の報告書にたいして楽観的であると指摘します。アフリカにおいては、依然としてインターネットにアクセス出来る層と困難な層で分かれており、インターネットによる雇用の推進は、アクセスできない層への包摂ができていない点を挙げています(Meagher 2020)。デジタル技術による包摂は、どこまで可能か、または不可能なのか、については現在でも途上国の多くで議論されています(Meagher 2021; Roy and Khan 2021)。
また、ギグワーカーとしての労働における課題をGraham et al. (2017)の調査は、実際のギグワーカーたちに対しての聞き取り調査としてまとめています。ギグワーカーになったからといっても、需要とマッチしないワーカーの供給過多になっている点、デジタル上では業務がどこにでもあることから起こる過剰労働など、ギグワーカー化しても労働環境は必ずしも改善していない点が挙げられています。このような中では、ギグワーカーにおいての技能の需給ギャップを縮減するために、各個人のスキルの向上が必要となっております。
また、ギグワーカー特有の課題も挙げられています。インターネットを介することによる匿名化したことによってインターネット上の顧客からの不適切な対応をうけること、人と直接接する機会が減り、社会的孤立が挙げられています(Graham 2017)。さらに、ギグワーカーであることによる新たな課題としてあげられていることが、「代替可能な1労働者でしかない存在」としての不満が指摘されています(Graham 2017)。インターネット上でデータとして雇用を創出することは、労働者、顧客が安心して取引できるよう、評価や番号による互いの数値的な見える化が敷かれています。その結果、各労働者は、「自分じゃなくてもできること」という各個人の代替可能さを数値的に明らかにされ、個人の固有性を失いつつあります。その点を考慮していくことは、数値的に収束されない人間らしい労働のために重要な視点であり、現在でも議論されています(Bloodworth 2018)。
Bloodworth, J.(2018) Hired: Six Months Undercover in Low-wage Britain.Atlantic Book.
Graham, M., Lehdonvirta, V., Wood, A., Barnard, H,, Hjorth, I. and Simon, D. P. (2017) The Risks and Rewards of Online Gig Work At the Global Margins
Meagher, K. (2020) Illusions of inclusion: assessment of the World Development Report 2019 on the changing nature of work. Development and Change, 51 (2). 667-682
Meagher, K. (2021) Informality and the Infrastructures of Inclusion: An Introduction. Development and Change.Vol. 2 (4). pp. 729-755.
Roy, P. and Khan, H. M. (2021) Digitizing Taxation and Premature Formalization in Developing Countries. Development and Change.Vol. 2 (4).
World Bank. (2019) World Development Report: Changing the nature of work. Washington D.C. World Bank.
井上直美(2020)「デジタル経済から労働者が得るものとは?(ウガンダ)」『IDE スクエア -コラム 新興国発イノベーション』日本貿易振興機構アジア経済研究所. pp. 1-5.