教育現場における実証研究 水谷文
2000年代以降、開発現場ではランダム化比較試験(RCT)を使用して、効果的な介入を見つけ出そうという動きが広がってきました。このランダム化比較試験とは、ランダムに選定したサンプルから成る2つのグループを作り、一方には評価を行う介入を行い(処置群)もう片方には介入を行わず(対象群)、この2グループの差を見ることで介入の効果を客観的に評価する方法です。今回は、方法論ではなく実際にRCTにより評価が行われた教育介入プロジェクトを幾つか紹介します。
画期的な戦略を立て出席率を向上させることに成功したプロジェクトにメキシコのProgresaがあります。これは、子供を学校に通わせる、健康診断を受けさせるなど様々な条件を基に低所得者に現金を給付するというものでした。この政策により、就学者の増加、児童労働の減少、幼児の発育不良の減少などが確認されました。(Shultz 2004; Attanassio 2011)
ケニアで実施されたプロジェクトでは、教育と健康問題を結び付けて考えました。このプロジェクトでは、学校レベルで虫下しの薬を提供し、その効果を確認しました。プロジェクト評価では、虫下しを実施した学校の学生の欠席率は1/4下がりましたが、それだけでなく処置群の学校でも欠席率が下がるという波及効果が確認されました。(Miguel and Kremer 2004)
実際の物ではなく教育の収益率に関する情報提供に関するプロジェクトもあります。マダガスカルで実施されたプロジェクトは、処置群に学歴と年収のデータを用いて算出された教育の収益率を知らせ、対称群にはその情報を知らせないというものでした。この実験により、収益率に関する情報を得たグループではテストの点と出席率が向上しました。特にこのプロジェクトが効果的であったのは、情報を知らせるだけという非常に低コストでありながら、効果が非常に高かったことが挙げられます。(Nguyen 2013)
直近にボツワナで行われた実験は、コロナ禍における教育支援の方法を評価したものでした。コロナによる学校閉鎖が行われる前に、電話での教育相談を受けたいと希望する世帯を3グループに分け、介入を行いました。3グループは、電話での支援、テキストメッセージでの支援、そして支援なしのいずれかに割り当てられました。その結果、テキストまたは電話での支援があったグループは、支援なしに比べ24%の学習向上がみられたことが分かりました。(Angrist他 2020)
この他にも教育現場で実施されている比較実験は多数あり、政策の有効性や効果がはっきりと数値で示されています。このような実験を通し、どのような政策がより有効で、効果が高いのか確認しながら実施していくことが、今後開発プロジェクトはより重要となってくると思われます。
References
- Schultz TP. School Subsidies for the Poor: Evaluating the Mexican Progresa Poverty Program, Journal of Development Economics, 2004, vol.74 (pg. 199-250)
- Attanasio, Orazio, Costas Meghir, and Ana Santiago. 2011. “Education Choices in Mexico: Using a Structural Model and a Randomized Experiment to Evaluate PROGRESA.” The Review of Economic Studies. 79(1): 37-66.
- Edward Miguel & Michael Kremer, 2004. “Worms: Identifying Impacts on Education and Health in the Presence of Treatment Externalities,” Econometrica, Econometric Society, vol. 72(1), pages 159-217, January.
- Miguel, Edward, and Michael Kremer. 2004. “Worms: Identifying Impacts on Education and Health in the Presence of Treatment Externalities.” Econometrica 72 (1): 159-217.
- Nguyen, T. (2013). Information, Role Models and Perceived Returns to Education Experimental Evidence from Madagascar.
- Noam Angrist, Peter Bergman, Caton Brewster, and Moitshepi Matsheng (August 2020). Stemming Learning Loss During the Pandemic: A Rapid Randomized Trial of a Low-Tech Intervention in Botswana. Centre of the African Economics