カイゼンの特徴と途上国における今後の展開 山崎裕次郎
「カイゼン」は日本の産業から生まれた製造業の生産現場で行われる作業の行動として現在世界各国で参照されています。JICA (2018) は、途上国においても、カイゼンの普及に向けてハンドブックにまとめ、日本型の産業発展アプローチに取り組んでいます。カイゼンの代表例として豊田喜一郎が提唱したアイデアを大野 (1978) が体系化したトヨタ生産方式が挙げられます。トヨタ生産方式は、作業過程における付加価値を高めない行動の排除(7つの無駄)、必要な時に必要な分だけ生産ラインに乗せて在庫や経費を削減(ジャストインタイム)、機械の「自働化」(自ら動く機械化ではなく、不具合対処などに自ら働く機械)によって、労働者の動きに付加価値を与えることを目指した生産現場での行動方式です。このようなカイゼンによるアプローチは、従来の生産方式とどのように異なるのでしょうか。
カイゼンの従来の産業構造と異なる点は、島田 (2018)が指摘するようにボトムアップによる製造プロセスの効率化にあります。従来米国で主流であったテイラーが提唱する科学的管理法は、作業工程の動作の細分化と、かかる時間を測定し、それに応じて労働者に1日のノルマを設定して作業していく方法です。科学的管理法は生産性の向上に向けてデータに基づくノルマ設定を各労働者に割り振るという点で、作業に携わる各労働者が割り振られたノルマを行うことで全体の生産が機能するシステムであります。一方でカイゼンにおいては、トヨタ生産方式にみられるように各労働者が作業全体に関する効率化への主体性が重視されています。その点において、科学的管理法はノルマを上から割り振られた労働の機能であるようなトップダウン型ですが、カイゼンにおいては、作業に従事している人たちの主体性によって効率化を図っている点からボトムアップ型であるといえます。その性質上、労働者の主体的行動によって組織全体がよくなることから、学習する組織としてもカイゼンは注目されています (細野 2017)。Liker (2004) はトヨタ生産方式における組織内での労働者が様々な学習を積極的に行っていることを指摘し、組織内の学習および企業の知識の蓄積にカイゼンが果たす貢献を指摘しました。
カイゼンは、企業内における協同であり、労働者個々人が自らの範囲でできることから取り組み、企業全体の環境を向上させる取り組みとして先進国や途上国への応用がされてきました (細野 2017)。従来の科学的管理法の下で行われる機能主義的なアプローチとは異なり、各労働者の主体性による組織の効率化が見込まれることから、途上国の産業化に対して日本の開発として示唆的であるといえます。一方、途上国の多くの労働者が体系的な組織構造を持たないインフォーマル・セクターに属しており、組織構造を所与とした議論では当てはまらない労働観を考慮する必要があります。労働者によるボトムアップ型の産業組織構造の議論であったカイゼンは、今後、企業という組織に捉われない労働環境を持つ人々に対して、どのような提言ができるのかを問うことが途上国の産業発展において重要であるといえます。
References
- JICA. 2018. Kaizen Handbook. Tokyo: JICA.
- Liker, Jeffrey K. 2004. The Toyota Way. New York: McGraw Hill
- 大野耐一、1978、『トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして』ダイヤモンド社
- 島田剛、2018、「特集:国際開発におけるカイゼン研究の到達点と今後の課題―学際的アプローチからの政策的インプリケーションの検討―」国際開発研究、第27巻、第2号、pp.1-11。
- 細野昭雄、2018、「カイゼンと学習―「質の高い成長」の視座から―」国際開発研究、第27巻、第2号、pp.27-40。