Hot Issues of Skills Development

本ページでは、スキルディベロプメントに関する先行研究などをまとめて記事にして紹介しています

SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Hot Issues of Skills Development 協同問題解決のためのスキル

協同問題解決のためのスキル 山崎裕次郎

 OECD諸国が15歳の生徒を対象に実施するPISAでは、2015年より協同問題解決能力も測定することになり、2017年には日本が協同問題解決能力において1位となったことで注目が集まりました。

 協同問題解決能力は、「複数人が解決に迫るために必要な理解と労力を共有し、解決に至るために必要な知識・スキル・労力を出し合うことによって問題解決しようと試みるプロセスに効果的に取り組むことができる個人の能力」を指しています (OECD 2013: 6)。この協同問題解決能力はどのようなスキルの構成素が測定されているのでしょうか。

 PISA調査では、協同問題解決能力を3つ能力(コンピテンシー):①「共通理解の構築・維持」、②「問題解決に対する適切な行動」、③「チーム組織の構築・維持」に焦点を当てています。一つ目の「共通理解の構築・維持」は、ある問題に対して互いが何を知っているかを確認し、共通の見解を構築する能力として、二つ目の「問題解決に対する適切な行動」は、問題の制約を理解、解決に向けてチームのゴールを設定、課題への行動、結果の点検のための能力、そして三つ目の「チーム組織の構築・維持」は、チーム内の役割を理解、参加のルールに従って、組織のモニタリングする能力をそれぞれ指しています。

 これら3つの能力を、問題解決の4つの認知プロセス:①「探索・理解」、②「表現・形式化」、③「計画・実行」、④「観察・熟考」と組み合わせ、12の測定可能なスキルを設定しています(下の表を参照)。

表:協同問題解決スキルのマトリックス (OECD (2013) をもとに作成

 協同問題解決能力を上記の12のスキルに細分化し、必要なスキルを明示化している一方で、課題も指摘されています。PISAは全世界に短時間で実行可能な問題群を測定し易くする必要がある性質上、一つの問題を解決した次に新たな問題が見えるといった連続的な問題解決過程にはまだ焦点が当てられていません(白水, 三宅, 益川 2014)。また、協同的問題解決という状況は、「誰にでも解ける問題を分担する能力」なのか、「誰も解けない問題について力を合わせて解こうとする能力」なのか、「自分では解けない問題を他人の力を借りて解く能力」なのかが不明瞭であることも指摘されています(遠山, 白水2017)。

 協同する能力や問題を解決する能力といった、測定が難しい能力を12のスキルに細分化し測定することで、新たな能力観が切り開かれたことは評価すべきことですが、松下(2014)が指摘するように、教育の多様性を測定可能な指標に飼い慣らしたPISAを飼い慣らすことが重要であるといえるように、協同問題解決能力の12のスキルを無批判に受け入れるのではなく、その限界点や改善点も考慮していく必要があります。

References

  • OECD (2013). PISA 2012 Assessment and Analytical Framework: Mathematic, Reading, Science, Problem Solving and Financial Literacy,OECD Publishing, Paris.
  • OECD (2017), PISA 2015 Assessment and Analytical Framework: Science, Reading, Mathematic, Financial Literacy and Collaborative Problem Solving, revised edition, PISA, OECD Publishing, Paris. 
  • 白水始, 三宅ほなみ, 益川弘如 (2014) 「学習科学の新展開:学びの科学を実践学へ」『認知科学』, 21 (2), pp. 254-267.
  • 遠山紗矢香、白水始 (2017) 「協調的問題解決能力をいかに評価するかー協調的問題解決過程の対話データを用いた横断分析―」『認知科学』, 24 (4), pp.-494-517.
  • 松下佳代 (2014) 「PISAリテラシーを飼い慣らす―グローバルな機能的リテラシーとナショナルな教育内容―」『教育学研究』, 81(2), pp. 150-163.