組織市民行動と非生産的行動 水谷文
「組織市民行動」とは、米国インディアナ大学のDennis Organが提唱した概念で、「組織に利益をもたらす、あるいは利益をもたらすことを意図した行動で、任意になされ、かつ役割期待を超えるもの」と定義されています。具体的には、「休んだ同僚の仕事を引き受ける」「職場を片付ける」「新入社員が困っているとき手助けをする」等があります。Organによれば、組織市民行動は、5つの次元から構成されており、利他主義(Altruism)、誠実さ(Conscientiousness)、礼儀正しさ(Courtesy)、スポーツマンシップ(Sportsmanship)、そして市民の美徳(Civic virtue)です。
組織市民行動は、自身のタスクに加えて自ら進んで行う行為であり、契約的には特に給与の面などから考えると、実施してもしなくても変わらないと考えられますが、その影響は様々な側面に反映されています。例えば、組織市民行動は組織全体の成功(Organ et al., 2006)、同僚のスキルの向上(MacKenzie et al., 1991)や経営層による従業員の評価(Podsakoff et al., 2009)などと正の相関があることが実証されており、実際には、割り当てられたタスクのパフォーマンスのみが企業全体の成功に繋がるわけではないということを経営層も認識していることを示しています。また、組織市民行動が高い従業員は、仕事満足度が高く(Murphy et al., 2002)、またエンゲージメントが高い従業員は組織市民行動を行う可能性が高いことも確認されています(Kataria et al., 2013)。
一方、組織市民行動と相反する概念で、非生産的行動という言葉があります。これは、周りから許容されない意図した行為であり、組織やそこで働く従業員に潜在的に悪影響を及ぼす可能性のあるものであるです。Bennet(1995)によると、非生産的行動は4つに分類することができ、遅刻や作業の遅さなどの生産的逸脱、備品の盗難やリベートの受け取りなどの資産の逸脱、うわさ話やひいきなどの政治的な逸脱、そしてセクハラやいじめなどの個人的攻撃があります。
これらの概念が経営管理や人材管理の中で発展してきた要因として、前述の通り、組織の中で、自分に割り当てられた役割のみを行っているのでは、組織が効果的に動いていかないということを認識しており、また従業員が潜在的にお互いを助けながら業務を行うことで、後々自分も困ったとき助けてもらえるという、組織への貢献とは別なインセンティブが働いているということも示唆されています(川口ら, 2014)。
また、近年の非認知能力の重要性に関する議論を考えると、このような組織市民行動は、組織というコンテクストにおける非認知能力の現れとらえること可能だと考えられます。しかしながら、それらが性格的なものなのか、それとも企業への忠誠心によるものなのか、はたまた自分への見返りを求めるものなのかは見極めが難しいところです。組織市民行動は既に確立された概念ではありますが、行動を後押しするその要因を探ることも組織のパフォーマンスを向上させる一助になると考えられます。
参考文献
- Kataria, A., Garg, P. and Rastogi, R. (2013) Employee Engagement and Organizational Effectiveness: The Role of Organizational Citizenship Behavior. International Journal of Business Insights & Transformation, 6, 102-113.
- 川口究.渡辺直澄(2014)「組織市民行動とその関連要員及びパーソナリティとの関係」慶応義塾大学大学院経営管理研究科
- MacKenzie, S. B., Podsakoff, P. M., & Fetter, R. (1991). Organizational citizenship behavior and objective productivity as determinants of managerial evaluations of salespersons’ performance. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 50(1), 123–150. https://doi.org/10.1016/0749-5978(91)90037-T
- Murphy, G., Athanasou, J. and King, N. (2002), “Job satisfaction and organizational citizenship behaviour: A study of Australian human‐service professionals”, Journal of Managerial Psychology, Vol. 17 No. 4, pp. 287-297. https://doi.org/10.1108/02683940210428092
- Organ, Dennis & Podsakoff, P.M. & MacKenzie, Scott. (2006). Organizational citizenship behavior: Its nature, antecedents, and consequences. 10.4135/9781452231082
- Smith, C. & Organ, Dennis & Near, Janet. (1983). Organizational citizenship behavior: Its nature & antecedents. Journal of Applied Psychology. 68. 653-663. 10.1037/0021-9010.68.4.653.