非認知能力は大人になっても鍛えることができるのか 水谷文
近年、非認知能力の重要性が強く説かれるようになってきていますが、この非認知能力とは鍛えることができるのでしょうか。一般的には、認知能力については年齢的な制限が存在するものの、非認知能力は成人後も鍛えることができると言われています。
例えばHeckman & Kautz(2014)らの論文では、性格特性は一生を通じて固定したものではなく、教育や育児、環境などにより向上させることができるとしています。また、非認知能力は、認知能力の発展に寄与するが、認知能力が非認知能力の発展に寄与することはないとも述べています。
Aguinis & Kraiger(2009)らは、過去の様々な文献から非認知能力の可鍛性についてレビューを行っています。著者らは、特にインターパーソナルスキル(チームワークやリーダーシップなど)とイントラパーソナルスキル(性格やモチベーションなど)に分けて、一つずつ検証を行いました。全体として、インターパーソナルスキルは、介入によって改善し得ると述べています。例えば、Gillespieら(2009)やBarth & Lannen(2011)は、介入によるコミュニケーションスキルの向上、Lacerenzaら(2017)はリーダーシップ訓練の効果、Kleinら(2019)のメタアナリシスでは、チームビルディングに関する介入により、プロセスやアウトカムにより大きな効果があったことを示しています。
一方、イントラパーソナルスキルについては、例えばBrecklin & Forde(2001)やKalinoskiら(2013)が職場での態度に関する介入を行い、反生産性行動に関する態度が減少したことを記述しています。そのほかモチベーションについては興味深い結果が示されており、Cameron & Pierce(1994)が、外的報酬が内的動機を減少させることはないと言っている一方、Deciら(1999)は、外的報酬は、実際のところ内的動機を減少させると言っており、一貫した見解がなされていないのが現状です。そのほか感情については、その感情の定義が広義か狭義かに関わらず、可搬性であるというのが一致した見解となっています。
可鍛性の大小はあるものの、年を取ってからも非認知能力は概して鍛えることができるというのは、労働市場に出てからの訓練効果の可能性、ひいては関連するアウトカムの向上に綱がると考えられます。また、企業もこのような非認知能力の重要性を理解し、近年多くの企業で、価値観やチームワーク、ロジカルシンキング、コミュニケーションの取り方などの様々な訓練が実施されるようになってきています。
参考文献
- Aguinis, H., & Kraiger, K. (2009). Benefits of training and development for individuals and teams, organizations, and society. Annual Review of Psychology, 60, 451–474. https://doi.org/10.1146/annurev.psych.60.110707
- Barth, J., & Lannen, P. (2011). Efficacy of communication skills training courses in oncology: A systematic review and meta‐analysis. Annals of Oncology, 22, 1030–1040. https://doi.org/10.1093/annonc/mdq441
- Brecklin, L. R., & Forde, D. R. (2001). A meta‐analysis of rape education programs. Violence and Victims, 16, 303‐321.
- Cameron, J., & Pierce, W. D. (1994). Reinforcement, reward, and intrinsic motivation: A meta‐analysis. Review of Educational Research, 64, 363– 423. https://doi.org/10.3102/00346543064003363
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta‐analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 25, 627– 668. https://doi.org/10.1037/0033‐2909.125.6.627
- Gillespie, B. M., Chaboyer, W., & Murray, P. (2010). Enhancing communication in surgery through team training interventions: A systematic literature review. AORN Journal, 92, 642–657. https://doi.org/10.1016/j.aorn.2010.02.015
- Heckman, J. J., & Kautz, T. D. (2012). Hard evidence on soft skills. Labour Economics, 19, 451–464. https://doi.org/10.1016/j.labeco.2012.05.014
- Kalinoski, Z. T., Steele‐Johnson, D., Peyton, E. J., Leas, K. A., Steinke, J., & Bowling, N. A. (2013). A meta‐analytic evaluation of diversity training outcomes. Journal of Organizational Behavior, 34, 1076– 1104. https://doi.org/10.1002/job.1839
- Klein, C., DiazGranados, D., Salas, E., Le, H., Burke, C. S., Lyons, R., & Goodwin, G. F. (2009). Does team building work? Small-Group Research, 40, 181–222. https://doi.org/10.1177/1046496408328821
- Lacerenza, C. N., Reyes, D. L., Marlow, S. L., Joseph, D. L., & Salas, E. (2017). Leadership training design, delivery, and implementation. Journal of Applied Psychology, 102, 1686– 1718 https://doi.org/10.1037/apl0000241
- Martin‐Raugh, M.P., Williams, K.M. and Lentini, J. (2020), The Malleability of Workplace‐Relevant Noncognitive Constructs: Empirical Evidence From 39 Meta‐Analyses and Reviews. ETS Research Report Series, 2020: 1-25. https://doi.org/10.1002/ets2.12306