多様化する能力観とICTを活用した学習評価の可能性 山崎裕次郎
現在、単なる読み書き計算などの認知的な知識、技術に留まらず、社会で生き抜くためのコミュニケーション能力や態度という非認知的能力も注目されており、特に2000年代に入ってから多くの議論が繰り広げられてきました。
1997年にOECDは、子どもの能力のみでなく、成人への能力概念も整理を目指したDeSeCo(Definition and Selection of Competencies)プロジェクトを立ち上げました。そのプロジェクトは「キー・コンピテンシー」として、「異質な集団で交流する能力」「自律的に活動する能力」「相互作用的に道具を用いる能力」の3要素を提示しました。「コンピテンシー」という言葉はDeSeCoによれば、単なる知識・技能を表すのではなく、特定の状況の中で(技能や態度を含む)心理社会的な資源を引き出し、動員してより複雑な需要に応じる能力を指しています。例えば、効率的にコミュニケーションを遂行するコンピテンシーには、言語の知識、使用する技能を有する上、ITスキルや話すときの態度を含みます(Rychen and Salganik, 2003)。2002年には、アメリカ教育省、ICT関連企業、教育団体が提携し、P21と呼ばれる「21世紀型スキルパートナーシップ」という非営利団体を設立し、21世紀の職場で求められるスキルを整理しています。
また、社会での実践と教育の一貫した教育評価の必要性から、オーストラリア・フィンランド・ポルトガル・シンガポール・イギリス・アメリカ各国とCisco Systems、Intel、Microsoftの3社が共同し、2008年に「21世紀型スキルの学びと評価(ATC21S)プロジェクトが立ち上がりました。ATC21Sでは、21世紀型スキルを以下のように10のスキルをknowledge、skills、attitudes、values and ethicsの領域に分け、この頭文字をとってKSAVEモデルと総称しています。
このように多様な能力が提唱されている背景には、既存の読み書き計算といった個人に帰属する能力から、社会において他の人と共に協同するための能力といった、いかに社会において能力を発揮していくかを重要視してきた傾向が挙げられています (Griffin and Care 2015)。他者との協同を重要視する潮流から、21世紀型スキルの評価として、2015年のPISAより、協同問題解決能力が実施されています。協同問題解決能力とは、OECDによると「2人以上の人が、問題解決に向けて知識、スキル、労力を出し合うプロセスに効果的に従事できる能力」を指します (OECD 2017)。この協同問題解決能力の測定は、問題解決の過程を可視化するためにコンピューター相手にチャットしていく出題と評価を行っています。
教育評価へのICTの活用は、他でも見られ、e ポートフォリオによる学習データの蓄積からキャリア形成のために必要とされる能力評価など、多様な能力を測定するための活用例が報告されています(森本、2008)。その一方、蛯名ら(2017)は、現状ではe ポートフォリオの特性を十分に活かした体系的な方法はまだ確立していないと指摘をしています。多様な能力を測定するにあたり、ICTを活用した学習評価は開発段階であり、今後も包括的な能力測定に向けた議論の展開が注目されます。
Reference
- Griffin, P. and Care, E. (2015) Assessment and teaching of 21st century skills: Methods and approach, New York: Springer.
- OECD (2017) PISA 2015 Assessment and Analytical Framework Science, Reading, Mathematic, Financial Literacy and Collaborative Problem Solving. PISA, OECD publishing, Paris.
Rychen D.S. and Salganik, L.H. (Eds.). (2003). Key Competencies for a Successful Life and a WellFunctioning Society. Göttingen, Germany: Hogrefe & Huber. - 蛯名哲也, 宮澤芳光, 森本康彦(2017)項目反応理論に基づいた学習評価支援システムにおける能力可視化機能の検証, 教育システム情報学会第42回全国大会資料, 2017. 08. 23- 08. 25.
- 森本康彦(2008)e ポートフォリオの理論と実際, 『教育システム情報学会誌』Vol. 25 NO. 2, pp. 245-263.