遠隔学習の現状の課題と今後の展望 山崎裕次郎
新型コロナウイルスの蔓延により、現在は世界で12億人以上の学習者が学校、訓練機関、大学の閉鎖の影響を受け、自宅での遠隔学習をしています (UNESCO 2020)。パンデミックにより突然強いられた遠隔学習についての課題と今後の展望は、現在多く議論されています。今までもオンライン学習は存在し、議論されていましたが、コロナウイルス蔓延により、世界各国が小学校から大学まで、インターネットを通じたオンラインでの授業の実施は初めての試みとなっています。
そこで、まず課題として挙げられたのは、遠隔教育へのアクセスです。途上国や、経済的に困窮している家庭におけるインターネットの普及率は低く、オンライン教育のアクセスを妨げています。その為、家庭の経済状況が教育へのアクセスへと直結してしまい、経済状況による教育格差が生じることが懸念されています (Haeck and Lefevre 2020)。インターネットはすぐに普及させることが困難な為、長期的には重要ですが、コロナ禍での教育のアクセスを保障するために、テレビ、ビデオ、紙媒体の家庭内学習のための教材の提供が短期的なアプローチとして注目されています。
UNICEFはルワンダの子どもの家庭学習のためにラジオを導入、コートジボワールでのテレビ放送を用いた学習、シリアにおける家庭学習用教材の配布などの支援を行い、インターネットアクセスが困難な環境にいる子供へ教育機会を提供しています(Miks and McIlwaine 2020)。また、非営利団体のUbongoはアフリカ地域に対して、アニメーションを通じて子どもに学びの機会を与えています。
学校に通わない期間の学力への影響は、夏季長期休暇の間で学力の差が家庭の経済レベルによって影響を受けている指摘(Cooper 1996)や、1916年のアメリカにおけるポリオ蔓延による学校閉鎖の前例において、わずか数週間の閉鎖期間にも関わらず学力低下がみられた結果 (Meyers and Thomasson 2017)など、今までにも報告されています。このような先例から、現在コロナによって学習環境が未曽有の状況ではありますが、家庭内での学習から学校教育に戻る際に、在宅学習の期間に家庭の経済状況による学力差が開いていることを前提に、その差に考慮した教育指導を行う必要があります。
また、そのような議論とは別に、現在様々な遠隔学習が試行されていることは、新しい学習方法として遠隔学習がどのように有効であるかという今後の可能性として考えていく良い機会でもあります。先述の通り、コロナ禍において、遠隔学習のアプローチがオンライン以外にも多様に展開されています。この多様な学習アプローチを即興的な学習機会を与える応急措置に終わらせず、今後の応用可能性を考えていく上で、これらの学習評価方法について考えることが重要となります。現在までも、オンライン学習の評価は議論されてきましたが、高等教育の議論に留まり、他の教育セクターへの応用については十分に議論されていません。そのような中、新たな学習評価方法として、途上国での携帯電話の普及率が高いことを活かし、電話での学習評価を行うことが模索されており、簡単な学習評価であれば有効である示し、新たな学習評価アプローチとして注目されています (Angrist et al. 2020)。
以上のように、コロナ禍による未曽有の状況の中、短期的には家庭環境による格差を広げない教育へのアクセスの拡大が課題となる一方、長期的な視点として、遠隔学習の評価方法を模索していくことも、これからの遠隔学習の可能性を開くうえで重要であるといえます。
References
- Angrist, N., Bergman, P., Evans, D. K., Hares, S., Jukes, M. and Letsomo, T. “Principle for Phone-Based Assessents of Learning.” Working paper 534. Center for Global Development.
- Cooper H., Nye B., Charlton K., Lindsay J. and Greathouse S. 1996. “The effects of summer vacation on achievement test scores: A narrative and meta-analytic review,” Review of Educational Research, 66(3), 227–268.
- Haeck, C. and Lefevre, P. 2020. “Inequalities in Education across Canada : Lessons for the Pandemic.” Research Group on Human Capital Working Paper Series.
- Meyers, K. and Thomasson, M. A. 2017. “Panics, Quarantines, and School Closures: Did the 1916 Poliomyelitis Epidemic Affect Educational Attainment? ” NBER Working Paper.
- Miks, J. and McIlwaine, J. 2020. Keeping the world’s children learning through COVID-19. https://www.unicef.org/coronavirus/keeping-worlds-children-learning-through-covid-19
- UNESCO 2020. Education: From disruption to recovery. COVID-19 Impact on Education. https://en.unesco.org/covid19/educationresponse