持続可能な開発目標(SDGs)と人材育成山田肖子
2015年9月の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、すべての人にとって、世界がより持続可能で公正な社会になることを目指し、2030年までに達成すべき17の目標から構成されている。国際社会の発展を促進するための国際目標は、15年ごとに設定されており、SDGsの前には、2000年に合意されたミレニアム開発目標(MDGs)が存在した。このMDGsは、途上国の貧困を削減することが中心命題となっており、その目標の達成のために、先進国は多額の開発支援を行うことが期待されていた。しかし、SDGs策定の議論が始まった2010年代初頭には、新興国だけでなく、後発途上国の中にも経済成長が著しい国々が出てきた。また、野心的な国際目標を達成するためには、地球規模で莫大な費用が見込まれる一方で、企業活動がグローバルに展開して、途上国に流れる民間資金の量が公的援助を凌駕するようになり、従来の先進国や国際機関を中心とした国際協力の在り方の見直しが必要という認識も広まった。また、世界の国や地域、人々の相互依存が高まる中、地球環境やエネルギー資源の保全はもちろんのこと、人の移動、国境を越えた経済活動や紛争などを先進国-途上国の二項対立で考えることは難しくなっている。そこで、SDGsは、先進国、途上国の区別なく、それぞれ国内の課題とグローバルな課題に対応することを標ぼうしている。また、従来は途上国及び先進国の政府や国際機関といった公的セクターが国際目標実施の中心であったのに対し、SDGsでは、企業や市民社会などの多様なアクターとのパートナーシップを明示的に目標の一つ(第17目標:SDG17)に盛り込んでいることも特徴的である。
出所:国際連合広報センター2020
さて、こうした世界の理念的な枠組みのなかで、産業人材育成はどのように位置づくのだろうか。主なところでは、質の高い教育の普及を目指すSDG4、雇用機会を得て適正な収入を得ることを目指すSDG8、産業化とイノベーションを目指すSDG9は関わりが深いだろう。
SDG4は、既に述べた新しい知識観を反映している。MDGsまでは、学校教育に必要な施設や教員の増大、就学率の拡大といった、教育サービスの量や質(特に基礎教育レベル)が評価の中心になることが多かったが、SDG4では、あらゆるレベルの教育・訓練を対象とし、学んだ人々が実際に身に付けた知識、スキルや態度変容(ラーニング・アウトカム)で評価しようという方向に転換している。こうした考え方に基づき、学校のカリキュラムも、企業や学内での実習を重視し、仕事の場で何が出来るかによって資格認定をする「コンピテンシーに基づく訓練(Competency-based Training: CBT)」への移行が進められている。また、技術を身につける場を学校に限定する必要はなく、徒弟や企業内研修の価値が見直される一方、職業課程における学校教育の有効性については、今まで以上に厳しい検証が求められるようになっている。
MDGsでは、貧困削減のための手段として、基礎教育の完全普及が目指されたため、多くの途上国で大幅な就学率の拡大が見られた。しかし、多くの若者は基礎教育を修了しても安定した雇用を得られていない。国際労働機関(International Labor Organization: ILO)の推計では、就業している世界の若者の37.7%(1億5600万人)は、一日2ドル以下の収入しかない(ILO2016) 。SDG8が掲げるように、安定した生活をもたらすディーセント・ワーク をより多くの人々が得られるために、教育の質を高め、仕事を含む卒業後の生活に活かせる知識・スキルと問題解決能力の獲得を目指す必要が指摘されている。このほか、もちろん「知識→雇用→安定・成長」の連鎖は、性別も年代も居住地も超えてすべての人の生活につながっていると言う意味では、17のSDGsの多くが産業人材育成に関わると言える。