Hot Issues of Skills Development

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SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Hot Issues of Skills Development 構成主義に基づく学習と評価

構成主義に基づく学習と評価 山崎裕次郎

近年の学習論において、構成主義的アプローチが注目されています。従来の行動主義に基づく教育評価論は、刺激−反応の結合を強化することによって知識を蓄積し、より高次の複雑な知識を獲得する「ブロック積み学習モデル」であるとギップス(2001)は指摘しています。この知識観において問題とされたのが、「どのように学んでいるのか」の視点であり、知識獲得に関連する認知過程や文脈を捨象していることでした。それに対し、構成主義に基づく知識観は、脱文脈化して知識を教えるのではなく、知識は個人を取り巻く環境と密接な関係であり、社会での相互行為によって知識が構成されるという考えです。

構成主義による学習観は、ピアジェやヴィゴツキー、デューイの思想に基づいた学習観であり、個々の思想から細かく議論が展開されています。そのため、包括的に構成主義の定義をすることには留保が必要ですが、久保田(2000)は構成主義的学習観の共通認識として、①学習の能動性、②知識の状況依存性、③学習の相互作用性をあげています。

構成主義に基づいた学習は、その性質上、教育評価において、学習過程は学習者個人の文脈に依存することから、従来の選択肢形式や暗記に基づく試験では、学習成果を十分に測れず、別の評価手法が模索されています。現在、アクティブラーニングで実施されているポートフォリオ評価や、ルーブリック評価はこの流れに依拠しています。

ポートフォリオ評価とは、学習者が学習過程で残したレポートや試験用紙、活動の様子を残した動画や写真などを残しておき、それらを基に評価する手法です。科目テストのような結果のみでは捉えきれない個人の能力を評価する方法として、使用されています。ルーブリック評価とは、学習活動における具体的な到達目標と、その達成基準の一覧を整理した表を用いて評価する手法のことです。具体的な基準と段階が一覧にされた表から、自らの段階を学習者が振り返りながら学ぶことのできるアプローチとして使用されています。これらの評価手法は、テストの結果のみでなく学習過程を明確に示すことで、学習者がどのように学んでいるのかを捉えることに寄与すると考えられています。

一方で、構成主義的な学習の評価は依然として課題が残っています。

①、自己評価のみであった場合、評価の信憑性

構成主義における知識の構成は、個人が周囲の状況との相互行為によってなされます。その性質上、知識は文脈依存した個人の主観的な認識において存在し、客観的な判断を下すことが困難であります。そのことから、自己評価の手法が採用されますが、それらはどれほど信憑性があるのか考えていく必要があります(→「自己評価VS他者評価」記事参照)。

②、評価に際して学習者および教育者の負担の増大

先述のポートフォリオ評価およびルーブリック評価は、それぞれ実証研究や試行錯誤を重ねて構成主義的学習の評価手法として可能性が指摘されています(吉川・植野 2010:松下 2014)。一方で、共通の課題として、評価のために生徒や教育者へ負担を課してしまう点が挙げられています。ポートフォリオ評価は、評価方法として注目されていますが、実施レベルでは、導入コストや学習者と教育者へ負担をかける点から取り組みが困難であったことが指摘されています(Afrianto 2017)。ルーブリック評価は、妥当性と信憑性を担保した評価表の作成にあたり、教育者の労力と時間がかかる点が指摘されています(松下ほか 2013)。

日本では、 2022年度より高等学校学習指導要領に「探究学習」がキーワードとなっています。探究学習は、生徒個人の問題意識から出発し、その問題を自らで調べていくことを育む教育アプローチです。科目テストのみならず、生徒の学習意欲や非認知的能力を育むことを視野に入れていることから、構成主義的学習観への注目を今後さらに後押ししていくことが予想されています。

 

参考文献

  • Afrianto, A. (2017) Challenges of Using Portfolio Assessment as an Alternative Assessment Method for Teaching English in Indonesian Schools. International Journal of Educational Best Practices (IJEBP). Vol. 1 No. 2. pp. 106-114
  • ギップス, V. C. (2001) 『新しい評価を求めて テスト教育の終罵』鈴木秀幸訳, 論創社.
  • 久保田賢一(2000)『構成主義パラダイムと学習環境デザイン』関西大学出版部.
  • 松下佳代 (2014) 「学習成果としての能力とその評価 -ルーブリックを用いた評価の可能性と課題-」『名古屋高等教育研究』14 号. pp. 235-255.
  • 松下佳代・小野和宏・高橋雄介(2013)「レポート評価におけるルーブリックの開発とその信頼性の検討」『大学教育学会誌』35(1): 107-15.
  • 吉野厚・植野真臣 (2010) 「学習評価のデザイン」『人工知能学会誌』25巻2号.