徒弟制による学習 山崎裕次郎
徒弟制とは、親方と弟子の関係の中でスキルを習得していく形態であり、途上国ではとりわけインフォーマルセクターにおいてよくみられます。徒弟制は親方との上下関係の下、日常的な家事などの雑用も行うことがある点からしばしば封建的な制度としてみなされていますが、労働と学習が渾然一体である為、獲得したスキルが労働に必要なスキルと直結し、スキルギャップを埋めることに寄与すると指摘されています (ILO, 2019)。学校教育と形式が異なることもあり、徒弟制を切り口にした学習理論は議論に富んでいます。
レイヴとウェンガーの提唱する正統的周辺参加は、学習を実践共同体への参加と定式化し、新参者がまず周辺的な猶予をもちながら、中核的な活動まで十全参加をしていくという学習過程を説明したものです (Lave et al., 1991)。ここでは周辺的な参加ができる空間により、入門的な授業をしなくてもよい点、自発的に学習したいから参加を決めた学習者であるため、学習への動機を考慮しなくてもよい点が学校教育と異なる点として挙げられます。また、徒弟制のエッセンスを教授法として学校教育でも取り入れようとした認知的徒弟制の議論もあります (Brown et al., 1989)。
一方で、徒弟制による学習は、親方の技能を中心とするため、社会構造が変化し、求められるスキルも変化した時、対応が困難である点が指摘されています (Becker, 1972)。徒弟制に関する上述の学習理論は、親方が持つスキル習得を目的とする共同体における理論であり、社会構造の変化には十分に考察されていない閉じた共同体の議論であるといえます。そのため、親方を中心とした特定の共同体内でのスキルギャップを埋めることに寄与しますが、それが社会に求められているスキルとマッチしているかについては依然として曖昧さが残ります。
References
Becker, H., S. (1972). School is a lousy place to learn anything in. In Learning to work, ed. B. Geer. 86-110. London: Sage.
Brown. J. S., Collins, A., and Duguid, P. (1989). Situated cognition abd culture of learning. Educational Researcher 18: 32-42.
ILO. (2019). Quality Apprenticeships: Addressing skills mismatch and youth unemployment. SKILLS for Employment. Policy Brief. Geneva. ILO SKILLS and Employability Branch.
Lave, J. and Wenger, E. (1991). Situated Learning: Legitimate peripheral participation. Cambridge: Cambridge University Press.