グローバルバリューチェーンと求められるスキル 山崎裕次郎
世界開発レポート2020ではグローバルバリューチェーン(GVC)が特集されているように、先進国の多国籍企業と連携をして、グローバル経済の中に途上国の人々を参画させることが近年注目されています。多国籍企業と連携をしていくことで、途上国内の非雇用の問題解決および生産性と収入の向上、イノベーションや技術革新を途上国へ波及させることが見込まれています(WDR 2013)。アフリカ各国においては、新規中小企業の増加が著しい一方、持続可能性が課題とされている中、GVCは持続性を確保し、現地中小企業の潜在性を最大限に引き出すことができると指摘されています(McKinsey 2012)。
このように、GVCは途上国の持続可能な経済発展に寄与すると指摘される一方、GVCの下、安い労働力やスキルの源泉として途上国の地方農家へ手を伸ばし、途上国へ浸食しているという指摘もされています(Tsing 2015)。Elias and Arora-Jonsson(2016)による西アフリカのシアバターの事例では、グローバル企業とローカル農家の関係において、先進国の求める商品・技能に重要性が偏重していくだけでなく、農家間の男女差、地域差といった水平的な関係においても外部からの価値判断によって格差を生じさせていることを指摘しています。Neilsen and Shonk(2014)によるインドネシア東部のコーヒー産業の事例では、先導する機関が商品の価値や戦略の決定権を有し、現地ローカルコーヒー産業はそれに従ったトレーニング、生産プロセスに従属してしまう結果となったと報告されています。このように、多国籍企業が必要とする技能が重視され、それらを持つ労働者は雇用機会、収入向上において優位に立つ一方、今まで途上国で培われた技能が軽視されてしまう恐れがあります。
以上のようなグローバル経済への途上国参画の課題に対して、必要とされている技能をいかに捉えるかが重要となります。GVCによる途上国の健全な発展には、多国籍企業が必要とする技能のみならず、現地の人々がどのような技能を有し、重視しているのかといった、現地において必要とされている技能を捉える必要があります。先進国による上からの浸食ではなく、GVCにおいて必要とされる技能を現地の既存の技能形成に沿うようにエンパワーメントをしていくことが重要となっております(Neilsen and Shonk, 2014)。
References:
Elias, M., & Arora-Jonsson, S. (2017). Negotiating across difference: Gendered exclusions and
cooperation in the shea value chain. Environment and Planning D: Society and Space, 35(1),
107-125.
McKinsey and Co. (2012) Africa at Work: Job Creation and Inclusive Growth, McKinsey Global
Institute.
Neilson, J., & Shonk, F. (2014). Chained to development? Livelihoods and global value chains in the coffee-producing Toraja region of Indonesia. Australian Geographer, 45(3), 269-288.
Tsing, Anna (2015) The Mushroom at the End of the World: On the Possibility of Life in Capitalist
Ruins.. Princeton, NJ: Princeton University Press
World Development Report (2013) Jobs. Geneva: World Economic Forum.