#6

株式会社公文教育研究会
× SKY

公文式学習が伸ばし、SKY技能評価モジュールが測る!
就労者の非認知能力トレーニングに関する協働プロジェクト、最前線インタビュー

▼Scroll

SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Interview

 SKYプロジェクトは株式会社公文教育研究会と協働し、南アフリカ共和国の若い就労者を対象とした習慣的数学学習による非認知能力向上の技能評価を行っています。
 そこで用いられる「公文式学習」は日本で生まれた自習形式の学習法で、今回の調査では算数・数学の教材を用いて研究が行われています。その成果を測るのはSKY独自の技能評価モジュール。そのコラボレーションについて、株式会社公文教育研究会ライセンス事業推進部調査企画チームの鈴木麻里子さん、井瀬俊士さんにお話を伺いました。

このSKYプロジェクトと公文教育研究会のコラボレーションは、文部科学省による日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)の「令和4年度 With/Postコロナにおける日本型教育の海外展開 アフリカにおける戦略的海外展開 採択事業」として採択されています。

公文式学習について教えてください。

 鈴木:公文式は、1954年に数学の高校教師だった創始者・公文公(くもんとおる)が、当時小学校2年生だった長男のために学習教材を手作りしたことに始まる学習法です。高校で数学に困らないようにすることを目標に、ルーズリーフに1枚ずつ計算問題を手作りし、少しずつレベルアップさせていく。この繰り返しを続けるうちに小学校6年生で微分積分が解けるまでの成果を出しました。(詳しくはこちらをご覧ください『公文式の特長|公文教育研究会 (kumon.ne.jp)』
 スラスラできる問題から始めることで喜んで取り組むことができ、「できる」を積み重ねることで自己肯定感と自分で解き進める力を付ける。1958年にこの学習法を使った最初の算数教室を開いて以来、現在では60を超える国と地域に広がり、約350万の学習者がいます。

  

国によって学習内容は違うのでしょうか?

 鈴木:公文式は日本の学習指導要領によらず、独自の学習段階を配列しています。どこの国にも合わせていないからこそ、同じ問題が国際的に展開できます。
 今回のプロジェクトでも公文式の英語版算数・数学教材をタブレットを使って学習いただいています。学習枚数や筆跡のデータ、学習状況の把握などが遠隔で可能で、今回も南アフリカの様子を日本から見ることができています。

 

今回の協働プロジェクトでは、どんな取り組みをされていますか?

 鈴木:EDU-Portの採択事業として、南アフリカ共和国で就労する若者を対象に習慣的数学学習による非認知能力向上とその効果測定をしています。7社の工場で工場の労働者に3か月ずつ公文式学習をしてもらい、認知・非認知能力の変化について技能評価します。現在(2023年10月)、介入後の測定を実施し、データが集まったのちにどう分析・解釈するのかを意見交換している段階です。
 南アフリカ共和国でも子ども向けの公文式教室を展開していますが、今回は企業の就労現場で従業員向けに実施するため、現地の協力者を含めて新しい体制で臨んでいます。

非認知能力には以前から関心をお持ちでしたか?

 鈴木:弊社が長年主に子どもたちを対象にした教室事業を展開するなかで、学習者は学力のみならず、集中力や自信、自己肯定感、粘り強さなどを身に付けていることは体感してきました。目に見える学力を伸ばすためには、学ぶ姿勢につながる見えにくい力(非認知能力)が重要だということは、経験的に分かっていたんです。
 「大人にも非認知能力が大事」ということは感じていましたが、これまで就労者に対して公文式を提供してきた事例はあまり多くは持てていませんでした。

実施した手ごたえはいかがでしょうか?

 井瀬:参加の継続性も、個々の学習量も想定以上です。こちらが考えていたよりも就労者は学習機会を肯定的にとらえているのではないかと感じております。これだけの反応があるのは驚きで、嬉しさと同時に学習プログラムの必要性を感じています。
 鈴木:びっくりするぐらいコツコツ学習してくれていて、学びたい、力を高めたいという人が多いことに驚いています。特に今回は企業を通じて参加をお願いした人たちですから、自分の時間を削ってまでやってくれるか心配でしたが、それが3か月も続いている。そこには学習内容が良いだけではない理由があると思うんです。その背景をこれからの分析で明らかにしたいと思っています。

 

どんな分析を考えていらっしゃいますか?

 井瀬:集中力や作業力の観点での分析や、“段取り力”、“点検や見直す姿勢”、“職場での上司とのコミュニケーション”に着目したいと考えています。例えば国内で公文式を導入していただいている企業の方より、公文式学習を通じて「段取り力が高まった」、「上司が部下の良いところが見えるようになった」という声があったからです。これが南アフリカにも当てはまるかを見たいと考え、そういった観点に関連する質問を名古屋大学SKYプロジェクトが実施する技能評価の調査項目に追加していただきました。それがどう因子として影響し、スキルとして整理されていくのかは、SKYプロジェクトのメンバーによる分析結果が出るまでまだ想像がつかないですが、興味があります。
 鈴木:公文式学習には「個人別・学力別学習」「自学自習で進む」「スモールステップ」「指導者」の4つの特長があります。教材をどう活かすかは人の関わり次第なので、今回の実践では、大人の学習者に対する支援者の関わり具合がポイントになると考えています。
 公文式教室には必ず先生がいて、学習指導をしながら意識的に、あるいは無意識的に、課題を乗り越えられるよう後押しをしています。先生から褒めてもらう、認めてもらう経験を積み重ねることで、次のステップで「今まで頑張ってきたし、頑張ろう!」と思える。それは人の存在によって、土台となる非認知能力が高まっているものと考えています。
 今回の実践では、職場での学習となるため、指導者はいません。そこで直属の上司との関わりや「頑張ってるね」というような声掛けがあるとモチベーションが上がるのかが分かると大変参考になると、SKYプロジェクトの分析チームにも要望を伝えています。人の存在の大切さがわかっているからこそ、それを追求したらどうなるか興味があるし、事業としても強みにできると思っています。

職場に指導者がいるようなイメージですね。

 鈴木:研修というと、「外部センターに出向いて受動的に学ぶ」という形式が多いですが、職場の中で、職場の人が関わりながら日常的に行うものはあまり無いと思います。また上司の関わりによって「こんなふうに関わってくれる職場で働きたい」と思ってもらえれば、とりわけジョブホップも盛んな海外では企業にとって新しいメリットを提供できます。研修を通して能力・スキルが高まり生産性が上がるだけでなく、働き甲斐を感じてもらえれば、就労者にとっても企業にとっても良い循環になるのではないかという仮説を持っています。

事業としてはどのような展開をお考えですか?

 鈴木:学齢期の子どもは文化的バックグラウンドの違いはあったとしても、ある程度同じような能力・ソフトスキルを高めることが求められていると言える一方で、大人は職業や分野によって重視される能力が違うのではないかと思います。それを明らかにすることができるのがSKYプロジェクトの技能評価モジュールで、アセスメントを通じてその業種で重視されているスキルが把握できます。そこに対して効果のあるソリューションとして公文式のどのセグメントが役に立つのかを特定していく必要があると考えています。非認知能力はセクターを超えてある程度汎用性があり、より広い業種で公文式が貢献できると言えるといいなとは思っています。

SKYとプロジェクトを進めることについてお聞かせください。

 鈴木:本プロジェクトは、私たちにとって初めてのことばかりです。実施できたのはSKYの皆さんのおかげです。アフリカ地域での実践研究の経験が豊富で、データの蓄積があるため比較対象も多く、実施後の技能評価やアセスメントへも柔軟に対応してくださり、感謝しています。
 実は最初に文部科学省のEDU-Port事業の会合でお会いした時から、山田先生の思いに共感するところがあったんです。SKYの学力にとらわれない能力感は、「一人ひとりの可能性を発見して、その能力を最大限に伸ばす」弊社の理念と合致します。一方で、南アフリカはアパルトヘイト廃止後も平等な教育機会を得られず、学歴で職業や職位が決まってしまう現実があります。学びたい人が学べる機会の提供と能力の発揮という形で社会貢献できることに、KUMONとSKYが一緒に取り組む意義、面白さを感じています。

目指しているところは似ていているのですね。

 鈴木:研究と事業という、アプローチが違うものが一緒になることで、新しい価値を社会に見せることができると感じます。KUMONは事業者としてメソッドや実践の機会を提供できますし、それを整理して政策提言まで含め社会に投げかけることはSKYが得意とするところかと思います。
その中で私たちも新規ビジネスの考案というだけではなく、社会的に意義のあるプロジェクトに関わるやりがいを感じています。大変な課題を前にしても、「この研究が進んで行くことには意義があるよね」という大きな目的への思いで繋がっているから、誇りを持てる。SKYというプロジェクトチームの雰囲気の良さが分かりますし、山田先生の情熱から学ぶ部分は大きいです。
また学術研究としては「求められる分析の水準」があると思いますが、山田先生は「研究成果が政策形成や事業実践の指針になることも、分析としての新規性と同じくらい重要だ」と仰っていただきました。実務経験もあり、民間企業を理解して下さる山田先生だからこそ、私たちの考えや事情に耳を傾けてくださるのだと思います。

プロジェクトに関わった意義は何でしょうか?

 大人向け事業のファーストトライアルとして、価値のある一歩を踏み出せたと思います。
 一歩ずつ進むのは事業も研究も一緒です。ご一緒させていただけたことでわかったことがあり、一方でわからない部分、もっと知りたいところも出てきます。お互いに一歩ずつ動いて、「アカデミックとしてはこれ」「事業としてはこれ」とわかったことを積み上げていったところで、次に深めたいところを定めて、また踏み出していきたいです。