#4 プロジェクトメンバー

島津 侑希

ソフトスキルはどう伸ばす?
- 教える人と学ぶ人、それぞれから見るカリキュラム

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SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Interview

-アフリカに興味を持ったきっかけを教えてください。

子どものころ家にあった図鑑にマサイ族の写真が載っていました。ビーズを付けた姿がどこよりもカラフルでかっこよかった。いつかアフリカに行きたい、この人たちに会いたいと思いました。
大学時代は学生NGOでアフリカの小学校建設資金を集めるために、募金活動やチャリティーライブの企画をしていました。大学2年生の頃、やっぱり1度はアフリカに行きたいと思ってタンザニアでボランティアツアーに参加しました。

-どんな体験をされたんですか?

村の小学校の周りに木を植えました。色んな国の学生と「木陰ができたら喜ぶよね!」と1か月ほど活動をして、凄く楽しかった。初めて行ったアフリカでのことは全て覚えています。
帰国後もNGOとのメールのやりとりが続き、数か月たった頃に「そういえば、あの木は大きくなった?」 と聞いたら、話をはぐらかされたんです。問い詰めてみると、「言いにくいんだけど、全部ヤギが食べたよ」って(笑) 

-ヤギに!

実はNGOが村人にきちんと話をしていなかったんです。村人はなぜ木を植えたのかを知らないし、そもそも木を必要だと思っていない。だから世話もしないでいたら、ヤギにとっては美味しい新芽だから食べちゃった。
自分は良いことをしたつもりでしたが、ボランティアの難しさ、支援の難しさを痛感しました。じゃあ、どうしたら良かったんだろう?それから勉強会をしたり本を読んだりするうちに自分の知識不足や視野の狭さを痛感し、もっと学びたいと思って大学院への進学を決めました。

-大学院ではどんなことに取り組みましたか?

修士課程では農業普及員を育成するエチオピアの農業TVET校(職業技術教育・訓練校)を対象として教育的視点、特にソフトスキルについて調査をしました。TVET校のカリキュラムには「ソフトスキルが大事だ」と書いてあるんですが、じゃあ「ソフトスキルとは何か」をTVET校の教員と農業普及員と農家に聞いてみると、人によって言うことが違うんです。
例えば教員は「農業普及員は教える立場だから、教授法が大事だ」などと言います。彼らは教育学部や農学部出身で、農業普及員をやったことも農家と接したことも無いんです。でも実際の現場では、農家の方が農業普及員より知識や経験が豊富で、農業普及員は教える立場ではなく、農家と行政の調整役や情報伝達役のような立場であることも多い。それで農業普及員は、授業で聞いたことと現地の事情が違うから困ってしまうんです。

-カリキュラムに書いてあるだけでは伝わらないのでしょうか?

カリキュラムをどう授業に落とし込むのか、そのカリキュラムによって意図した能力が身に付くのか、それは難しい課題です。「カリキュラム」と言っても政府などによって計画されたもの、教員が理解したもの、教員が実施したもの、などと段階があります。そこに学校の慣習や教員の言葉・態度などを通して意図せず学ばれる「隠れたカリキュラム」も加わり、「最初に描いていたカリキュラム」と「実際に生徒が経験した/学び取ったカリキュラム」にはズレが生じます。

-ソフトスキルのカリキュラムはとりわけ難しそうです。

ソフトスキルを教えるカリキュラムは色々あります。例えば私が調査を行ったTVET校のカリキュラムには「コミュニケーション力」「チームワーク力」などの育成が記載されていました。しかし、そもそも各能力の定義が曖昧なので、現場の教員からすればどう教えて良いか分からない。それで「“コミュニケーションとは何か”を語る講義」をしてまったり、時間が足りなくなれば面談をして「話がうまくできるから“コミュニケーション力”はOK」としてしまったり。

-博士課程でもカリキュラムについて取り組まれたのでしょうか?

引き続きエチオピアの農業TVET校で、「ジェンダーセンシティブカリキュラム」を対象としました。「ジェンダーセンシティブな農業普及が実施できる農業普及員を育成するためのカリキュラム」と聞くと「それは大切だね」と感じます。ですが、実際はソフトスキルと同じくジェンダーセンシティブの定義が定まっていないので、教員ごとに独自の解釈で実施していました。「女性を大事にしよう」と言葉で伝えている教員、女子学生への対応の話だと考える教員、「男女が同じ仕事をする村」の事例を語る教員、それぞれの価値観で「自分はしっかり実施している」と言っていました。教員間の違いだけでなく、農村部での調査を経て、そもそもジェンダーセンシティブカリキュラムとは何のために実施するのか、現場の声は反映されているかなど、様々な視点で分析を行いました。

■ SKYプロジェクトでの研究

-SKYプロジェクトでの研究について教えてください。

エチオピアにTVET校と企業が連携する「実務訓練プログラム」があります。1週間のうち1~2日は学校で授業を受け、3~4日は企業でトレーニングを受ける、徒弟制と学校教育の中間的なものです。「学校で学んだ理論を実践で学ぶ」ことが目的ですが、学習内容と実務が対応するとは限らず、定量的にはあまり効果が無さそうなんです。先行研究では受け入れ体制が問題視されることが多いのですが、ソフトスキルの点で観察すると興味深いことが分かります。
例えば出社した順に希望する作業に就ける工場では、遅刻した日は掃除しかさせてもらえません。また作業指導員を付けられない中小の工場では、職人の真似をして仕事を覚えたり、分からないことを自分から聞いたりしなければいけません。さらに、就職につなげるためには、自分が作業したものを工場長に見せて持っている技術をアピールするなど、自分を売り込む必要もあります。ですので、積極的に行動することができる学生はどんどん評価が上がります。一方で、受動的だったり、時間を守ることができない学生は、せっかく工場に行っても一度も機械を触れないこともあります。学生が身に着けているソフトスキルが、技術習得や学生への評価に影響していると考えることができるんです。

-ソフトスキルの重要さが分かりますね。

学校は先生が言ったことをやる、間違っていたら教えてくれる環境です。そこでは受動的でいられますが、仕事では積極的であることが求められる。学生は現場に出るうちにそれに気付き、ソフトスキルを身に着けていく。TVET校でいかに「コミュニケーション力」を教えるかについて議論するよりも、まずは現場に出てみると実践的に学べるのではないかと考えています。なので、TVETがどのように産業界と連携していくかが「ニーズに合った人材育成」をするためには重要であると言えます。

-SKYプロジェクトに参加したのはいつごろですか?

特任助教として勤務してからです。最初は数名で進めていましたが、それぞれテーマや手法が違うため成果を出すためには1つに絞らざるを得ませんでした。「それならまずテストからだ」と、実技の測定方法を考案するところから始めました。
それから人数もだんだん増えてきて、計算や裁縫の筆記問題を作り、実技測定もアフリカに適したものになり、研究の成果が形になっていきました。

-SKYプロジェクトでの研究はいかがですか?

SKYでは「面白い」と思えることなら何でも研究出来ます。他の研究プロジェクトであれば目的や方法が先にあり、予算とロードマップの枠組みの中で役割が決まることが多いと思います。しかしSKYでは、「こういうことに興味がある」「こういうことをやってみたい」と言えば止められたりはしません。
やりたいことがある研究者にとっては、とても魅力的なプロジェクトですから、どんどん興味を持ってもらいたいです。

-これからのSKYプロジェクトでの展望を教えてください。

実は最近、あまり参加できていませんでした。子どもが生まれてからは、子育てと仕事で思うように研究時間が取れなくなり、思うようにいかないことにストレスが溜まっていきました。ですが山田先生に相談したら「人にはライフステージがあるから、参加できないタイミングがあっても良い。メンバーがいつでも戻れる場所にしたいから、SKYの旗を立て続けたい」と言っていただけました。今は少し離れていますが、戻りたいと思っています。

島津 侑希

専門:教育社会学、地域研究(サハラ以南アフリカ)、産業人材育成、ジェンダーと開発

所属:愛知淑徳大学交流文化学部 講師

経歴:名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。その後、同特任助教、助教を経て、2022年4月より現職。