#1 プロジェクトリーダー

山田肖子

ひとりでは出来なかったところまでプロジェクトが広がる、
その面白さをシェアしたいし、シェアしてもらいたい。

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SKY[Skills and Knowledge for Youth] ホーム Interview

■ プロジェクトのはじまり

-プロジェクトのきっかけを教えてください。

アフリカの教育研究をするうちに、学校教育はこの社会の知識創造をとらえているのかという疑問を持ちました。アフリカは伝統的に口承文化で、文字を用いない知識伝達の方法が発達している社会が多かったのに対し、学校教育は植民地支配とともに入ったものです。ですから、「学校に行けば知識が得られ、暮らしの向上に活かされる」という発想自体が外来のものなんです。
じゃあ現地では生きていくための知識や技術をどうやって身に着けるのか。産業人材の能力に関心を持って政府の方と話すと、「学校で職業課程を卒業しても仕事ができない人が多い」と言います。「我が国の課題は産業育成、経済発展」「そのための人材育成制度がうまくいってない」「学校と現場のミスマッチ」……こういったビッグワードはどこの国でも使いますが、具体的な人や仕事の場のリアリティに踏み込んだ話がなかなか出てきません。

-なぜ現場のリアリティを伴わないのでしょうか?

各省庁が縦割りで、それぞれが集めている情報が繋がっていないんです。学校統計では産業人材の能力は分からない、労働統計には知識の話は出てこない、経済産業統計では人の能力がどう生産性に関わっているか見えてこない。こうした情報の断絶から、現実に働いたり生活したりしている人々のリアリティを包括的かつ横断的に把握することができないのです。
こうした政府や業界団体、企業などが何とかしたいが解決策が分からない、問題の所在が分からない、というのを解きほぐすことでお役に立てるのではないか、またそれが研究としても新しい展望につながるのではないかと思いました。

-解決の糸口はどこにあるとお考えでしたか?

経済学などの分析では、「学歴」が、ある人が持っている知識や能力を代替的に示す変数として用いられます。実際、統計的には学歴の変数の影響は強いのですが、これは必ずしも、その人に沢山知識があったり有能だったりすることを意味しないのは、我々の直感でも分かります。それでもなぜ学歴変数の影響が強いかというと、雇用者が人材を採用する際に、個々の求職者について詳しく知ることができないために、人材のスクリーニングの手段として学歴を用いることが多いからです。つまり、能力そのものというより、雇用者や周りの人々が、人材を選んだり評価したりする際の基準として学歴を用いるため、学歴の影響が強くなっているのです。
学歴と能力は同じではない、しかし、それを証明するためには、個人の能力をしっかり測定したデータがなければ、学歴と能力が雇用に及ぼす影響は違うのだ、と証明することはできません。そこで、SKYプロジェクトではまず、能力を計量的に測ることから始めました。技能評価をするツールを考えよう、と。

-「測る」ことから始めることが重要だったんですね。

測ることで「能力」や「知識」といったつかみどころのないものが目に見えるようになります。それは「こうしたら解決に向かう」というメッセージを出す材料、足掛かりになる。大きな目標を掲げたりお題目を言っても具体的な議論が出来なければ仕方がない。ですから、データに基づいて、「現実にここの労働者はこんな能力を持っていて、雇用者の期待とミスマッチを起こしているのはこの部分ですよ」と伝えること、様々な立場の関係者が一堂に会して解決策を議論できる土俵を提供するようなことかもしれません。
計量データがあるから途上国の政府もSKYを評価してくれます。グラフや統計は実務者へのアピール力が強いんですね。ただし、我々は大学を拠点とする研究チームなので、政府や企業にサービスを提供することだけが目的ではありません。また、臨床的に特定の場の状況を実証的に研究することと同時に、そこからより抽象度が高く、他の状況にも当てはまる理論の構築もしていければと思っています。

-どのような観点から理論化を考えていますか?

計量データの収集と分析から始めたのは、短い報告書で図表だけ拾い読みしても説得力がある形を目指したからです。でも、開始して数年経った今は、計量データも継続して生み出しつつ、同時に、別のアプローチや研究手法を使っても、このプロジェクトのメッセージは追求していけると思っています。つまり、社会学からでも、哲学からでも、人類学的な観察に基づいても、我々は「知識」や「能力」についての研究を深めることができます。
例えば今の世界に生きている人達の能力を、日々変化する社会の中で捉えるのが実証研究だとすれば、教育社会学の観点からは「なぜ人々は、主要な知識創造の場は学校だとみなしているのか」という問いが出るかもしれません。また、発達心理学からは、「人々の能力の違い(学歴ではなく)は何から生じるのか」といった側面が照らされるかもしれません。これらは、「知るとはどういうことか」という哲学的な問いや、知識が生産性や経済発展にどうつながるかという経済学的な議論にも繋げることができます。

-学際的なプロジェクトなんですね。

「知識を多面的にとらえた研究が不足している」という意識が始まりですから。「知識を解体する」という核を共有していれば、その方法はマルチなほうが良い。計量的にとらえるのか、哲学的にとらえるのか、それはプロジェクトメンバーそれぞれの方法で良いんです。

■プロジェクトの現在位置

-ここまでの成果を教えてください。

産業人材が実際に持っている能力と、雇用側の期待との関係性を定量化し、一貫して評価・比較できるツールを開発しました。
また本を出版したこともプロジェクトとして大きな成果ですね。個別の論文は学術的な世界で評価されるには大事ですが、一定の文字数の中でテーマを絞って発信するので全体像が伝わりません。それを積み重ねてもSKYというプロジェクトとして認知されるには時間がかかります。開始して何年か経って、言いたいことが一貫したメッセージとして形になってきたとき、やっと何をしようとしているチームなのか、少しずつ分かってもらえるようになってきました。

-現在、プロジェクトはどんな段階にあるでしょうか?

まず、「研究に基づいて、こういうことを言いたい、言えるはずなんだ」というイメージがあり、それに向かって、そこに至る道を考えながら歩んでいるところでしょうか。新しい分野では、分析の枠組みや、そのための方法論が確立しているわけではないので、ゴールは見えているけれど、そこに至るために先人が作った道筋をなぞるということができない。つまり、ゴールへの到達方法はたくさんあるかもしれないけれど、それを見出す創造力が必要だということです。創造力は、思い付きだけでは発揮されず、どんなやり方がありうるかを知っているという意味で、研究のレシピを沢山学ぶ必要もあります。若いメンバーにとってはかなり挑戦的な環境かもしれません。
一方、私の側からすると、チームで動く以上は目標を共有して方向を示す必要がありますが、ある程度論文や本という形になるまでは、今、どの段階にいて何をしようとしているのかを人に共有するのは難しい。当初は、人を動かせるだろうか、乗っかってきてくれるだろうか……という不安は常にありました。これは目標共有が難しい文系の共同研究特有の課題かもしれません。

-プロジェクト運営において意識していることはありますか?

高額な機械や多額の予算がなくても個人で研究ができる文系において、複数の研究者が関わる研究プロジェクトは「そこに参加したい」と思う、きらきら効果があって初めて成り立ちます。「あそこに関わっていたら自分も面白いことが思いつくな」「一人じゃできないことがそこにあるな」という可能性は見せたいと思っています。
私自身、研究は面白くてなんぼだと思ってやってきましたが、このプロジェクトをやるようになって、自分自身も楽しみつつ、「ここは若手が積極的に動くのを待ったほうが良いな」「指示しちゃだめだな」と考えるようになりましたね。一人一人が研究者なので、その人なりのモチベーションの延長線上に協働がなければならない。その意味でも、全体像が見えてきた今は分業がしやすくなったかもしれません。こちらで方向付けをして、責任は取るからそれぞれが面白がってね、と。

-ご自身の立ち位置が変わられたのでしょうか?

研究を始めたころは、研究者の横並びの関係の中で連携するのが自分のやりたいことに繋がりませんでした。ずっと一人で飛行機に乗って、現地に行って……と、個人で研究することが多かったのですが、段々、年を重ねるにつれ、社会にインパクトを与える研究をしようとしたら、自分の専門分野以外と連携することも必要だと感じるようになりました。階段が上がって見える風景が変わり、もう自分一人で抱えるものじゃなくなっていったのかもしれません。出来ることが広がる面白さ、それをシェアしたいし、シェアしてもらいたい。そこにエネルギッシュな若手研究者が集まってきてくれたことは幸いでした。

-「若手」というのが印象的です。

新しい研究分野を作ろうと思ったら若い人ですね。新しい面白さに反応が鋭くて、実験的なことでも興味を持ってくれます。既に何かの分野で地位を確立された人は、敢えて冒険をすることが少なくなるかもしれません。実際、若い時より自分の研究時間が大幅に限られますし。一方、若手であっても、研究の方法論やキャリアパスが確立された分野にいる人は、一刻も早く安定した研究職に就くために、専門分野以外の横道に逸れている時間は無いと考える人もいます。そういう意味では、「知的探求を面白がれ」などというSKYプロジェクトに今いるのは、若手の中でも冒険心が強い、先が見えないことに首を突っ込める人たちですね。

-若手研究者との関わりにおいて意識していることはありますか?

研究者を育てることは、研究分野を作ることと表裏一体です。彼らの元気や方法論に対する興味でプロジェクトを活性化してもらっていますから、その分、こちらからは多くの機会や刺激を提供したいと思っています。
研究者の卵は、自分の研究の核を自分で作り出していかなければなりません。研究者として有能な人は、別の見方をすれば、我儘かもしれません。つまり、「私の研究はこういうメッセージを発信するんだ」という強い思いがある。思いが強いからこそ、あらゆる方法を試し、努力して、もやもやしたものを形にする。分野を作るということは、そういう、思いの強い人々を束ねすぎずに惹きつけ続けることでもあるかもしれません。そのためには、一人一人の研究者としてのアイデンティティやこだわり、「ここは私の意見なんだ」と思っていることへのリスペクトが必要です。

-学生指導とも違いがありそうですね。

大学教員としては、学生には、物事を批判的に見て自分なりに考える面白さに気づいてほしいと思っています。「偉くなるには学位が必要だから」ではなく、「自分の頭で考えるのが面白いから」大学にいるんだと感じさせたい。「脳みその深いところを使う興奮があるんだよ、面白いでしょ?」と。研究者を育てるのはそこから始まっていて、学生の中から立ち上がってくる能力を見つけ出すんです。
SKYは学生指導の中から始まっているものが実を結んだ面もあります。いい研究の芽を持っている学生を、例えばアルバイトで参加させてみて、彼らが「SKYに参加できることが楽しい」と感じてくれれば、他の学生も興味を持ってくれます。

■プロジェクトのこれから

-次はどんな展開を考えていますか?

実証データを持つことが突破口だったので、次はデータ分析のモデルケースを出します。モデルがあれば応用ができ、プロジェクトに興味を持った人も「こうすれば自分のオリジナリティを出せるな」とイメージしやすくなります。同じパターンを踏襲して部分的に応用したり使うデータを変えたりすれば論文も書きやすく、複製拡散もされやすい。自分で一から構築しなくても、SKYのツールを使って学位論文を書いてもらうようなこともできます。
誰もが冒険的で創造的な研究者でなくても、学位を取っていろいろな仕事についていく人がいていいわけです。
計量ツール自体も簡単に実施できるようにしていき、それが本当に使えるものだと認知してもらいたい。国や地域が違ってもこのツールを使うことができるはずだと思っています。

-COVID-19の蔓延による影響はあるでしょうか?

「うちの工場でもやりたい」といった声に応えるため、我々が現地に行かなくても実施できるようマニュアルやアプリを開発していました。遠隔でもデータ収集ができれば渡航出来なくても研究はできます。
「我々自身が行かないと」と思い過ぎていた部分もあります。現場に身を置き、その人たちと感覚を共有することを重視するカルチャーが日本の人文社会研究全体にあったような気がしています。自分でデータを集めることに研究者としてのアイデンティティを感じていましたが、「現地に行けない」となった時、「じゃあ研究のオリジナリティって何か」という自問自答が生まれる。データ収集の作業は誰かに委託したとしても、自分なりの方法で分析すれば、発案者の研究と言ってもいいのではないか。COVIDは、長いこと研究の世界で問えなかった「そもそも論」を、「冷静に考えたらそれでも良いんじゃない?」と考え直す機会になったと思います。

-データ収集も柔軟になっているんですね。

タブレットで答えてもらえばそのままデータになります。データ収集の便宜もスピードも上がります。
集めたデータをオンラインシステムで共有する取り組みも行います。現在、初めて見る人にも分かるようにデータの整理を進めています。同じデータセットを使っても変数の設定次第でいくらでも切り口はありますから、外部の方にも「SKYのデータを使った分析をしたければ是非どうぞ」と積極的に伝えていきたいです。

-外部から新たにSKYに参加することもできますか?

もちろんです。新しい人がチームに無かったものを持ち込み、発想を広げてくれます。「今までのメンバーだったら、こう言ったらこう返ってくる」ところに、違う発想で返事をしてくる人がいるのはダイナミズムとして大事です。
データに興味がある人、概念研究に興味がある人、実務家など、「知識」「能力」というテーマに異なる観点から共感する人が集まるプロジェクトになると面白いですね。全体ではなく部分的な関心でも、ベテランの方も、学生も、冒険的創造の意欲があれば歓迎します。

-研究者に限らず参加ができるんですね。

実務者などは、研究者的な言い方はしないかもしれないし、経験に基づいて語っているだけだとご自身は思っていることの中に、こちらから見るととても重要な要素が含まれていることがあります。そういうのをうまくつかみとることも研究チームには重要だと思っていて、こちらのアンテナに引っかかれば「こういう風に我々と関われるよね」とマッピングできます。まあ、実務の方はお仕事がお忙しくてなかなか研究の時間は取れないかもしれませんが。

-SKYが求める人物像はどのようなものでしょうか?

色んな切り口のある議論を楽しめて、違う視点の面白さが分かる人です。「そういう見方をするとそうなる、私にはこう見える」という思考に必要なのは、「他人の発想の基にある考え方を汲み取る分析力」と「自分と違う発想する人を理解する力」です。枠がはっきりあるものではありませんから、共有するものを理解しながら「自分が可能性を作る部分がたくさんあるぞ」と思える人が良いですね。

-それぞれの視点や興味から参加ができるんですね。

プロジェクトの核になる物が共有しやすくなったのが大きいです。それが外からも見えるようになり、「こういうことをやるプロジェクトなんだな」と思ってもらえる。同時にチームメンバーの中からも「もっといろいろな人が参加しやすくなるよう、発信をしよう」という機運が高まってきた。「自分たちだけじゃダメだぞ」と思ってもらえているのは、若手も能力を付けているし、自信や成果があるからですね。

-では、改めて今後の展望をお聞かせください。

成果を理論化する作業が少しずつ形になっています。我々の頭の中では一貫性のあるメッセージを、様々なアウトプットを通してチームの意見として外に出していきたい。
ここからは私が直接引っ張るというよりも、環境設定やメンバーが面白がれる状況を作り続けることに精力を注ぎたいです。今SKYプロジェクトに関わっている時間、若い時の数年間は人生の中では短いかもしれないけど、ここからそれぞれのキャリアが展開してくれれば嬉しいです。SKYプロジェクトの原動力は「面白い」ということ。興味関心のダイナミズムの中で、多面的に展開していくチームでいられたらと思います。

山田肖子

専門:途上国の産業人材育成と技術・職業教育、知識論、アフリカ子ども学

所属:名古屋大学アジア共創教育研究機構 / 大学院国際開発研究科 教授 

経歴:1991年早稲田大学法学部卒業。その後、コーネル大学修士課程、インディアナ大学博士課程修了。財団やコンサルタント会社に勤務ののち、広島大学、政策研究大学院大学を経て、2007年12月に 名古屋大学国際開発研究科に准教授として着任。2015年より同教授。2017年4月より アジア共創教育研究機構を兼任。