メリトクラシーの現状と能力評価

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メリトクラシーの現状と能力評価

 

メリトクラシーは、メリット(IQ+努力)とクラシー(支配体制)を組み合わせた、M. Young (1958) の『The Rise of Meritocracy』という風刺小説で出てくる造語で、生まれ持った階層に依存した「属性主義」に対抗した「業績主義」のような社会原理として現在使用されています。ここでは、メリトクラシーをめぐる議論の中で、①業績主義VS属性主義と②メリトクラシーの拡大化について整理したいと思います。

①業績主義VS属性主義
業績主義は、生得的な社会階層に関わらず個人の機会が能力に応じて平等になることが想定されていましたが、実際には属性バイアスが常に潜んでおり、業績―属性の依存関係が議論されています。Halsey (1977)は「メリトクラシーの幻想」と呼び、個人の能力には社会階層が強く作用している為、表面上は業績主義でも結局は属性に依存している点でメリトクラシーへの懐疑を投げかけています。同様に、社会階層によって労働者階級が世代で再生産してしまうことを提示したWillis(1977)や、Brown(1990) の提示した個人の教育達成が個人の能力と努力ではなく、親の富と願望に依存して決まっていることを指した「ペアレントクラシ―」という造語は、能力主義は名ばかりで、実際は属性に依存している点を主張しています。また、Spence (1973)が、高い学歴の労働市場へのシグナリング効果を明らかにしたことから、能力主義の成果としてみられた教育を達成した後、その業績は雇用者の視点へシグナルとして属性に転倒し、実際の本人の能力ではなく、その学歴の属性に回収される結果を生むことも指摘されます。このように、業績主義においては、業績の原因としての属性、業績の結果が属性への転倒という両者の関係がある為、完全なメリトクラシーは困難であると指摘されています。

②メリトクラシーの拡大化
メリトクラシーの進行と社会変動が起こる中、固定的な基本的能力を測ることに留まらず、その社会の変動に応じて様々な能力を生み続けています。現在ではメリトクラシーの発展形態として、生きる力、コミュニケーション能力のように様々な「~力」という従来測定が困難であった性格や特性的諸要素も数値化していくハイパー・メリトクラシー化が進んでいます(本田 2005)。本来、性格や個人の特性的諸要素は「~しやすい」といった傾向を測っていたに過ぎなかったのに対し、「~できる能力」というように、個人に内在する能力として用いられてた結果、傾向でしかないものが能力化していると指摘されています(広田 2011)。社会変動が常に起きる中で、個人の将来を予測可能にするツールとして能力が扱われ、次々に個人の特性などが数値化され新しい能力が生まれ続けています。

このような議論から、広田(2011)は、能力評価を視点に、①能力自体の不確かさ、②個人の先天的環境の評価は考慮不可能、③一つの尺度ではなく多様な評価者の存在という3つの点から絶対的な能力評価を基盤とした社会原理であるメリトクラシーの実現は困難であると指摘しています。属性主義から業績主義になることで個人の機会を開放する点ではメリトクラシーの構想は示唆的ですが、能力評価を一元化することで能力をメタレベルに引き上げ普遍化させることを目指すのではなく、不確かで変動する社会の中で能力を評価することが、個人にいかなる効果を与え、それぞれの能力・適正に沿う活躍に向けた判断材料として寄与するにはどうすればよいかを考えることも重要であるといえます。

(Yujiro Yamazaki)

References

  • Brown, P. (1990) The Third Wave: Education and the Ideology of Parentocracy, British Journal of Sociology of Education. Vol.11. No.1, pp.65-85.
  • Halsey, A.H. (1977) Towards Meritocracy? The case of Britain, in Karabel, J. and Halsey, A. H. eds. Power and Ideology in Education. Oxford University Press: New York.
  • 広田照幸 (2011) 「能力にもとづく選抜のあいまいさと恣意性―メリトクラシーは到達していない」宮寺晃夫編『教育機会の再検討』岩波書店.
  • 本田由紀 (2005)『多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで―』NTT出版.
  • Spence, M. (1973) Job Market Signaling, Quarterly Journal of Economics. Vol.87, pp.355―374.
  • Willis, P. (1977) Learning to Labour. Saxon House: Farnborough.
  • Young, M. (1958) The rise of the meritocracy, 1870-2033: an essay on education and equality, Thames and Hudson: London.